2 ISP市場の動向


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2−1 電話会社主導、自由化への動き


 アジアのインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)市場では、以下の2つの傾向が顕著となっている。
 第一は、これまで市場をリードしてきた独立系のISPに代わって、電話会社系のISPビジネスが主導権をとり始めたことである。一説によれば、アジアにおける電話会社系のISPの市場シェアは40%を越えたといわれ、過半数に達するのは時間の問題といえる。
 インターネット市場が成長するにつれて、必要となる設備投資の規模が巨大化し、独立ベンチャー系のISPでは、これを支えるだけの資本調達力を備えることがきわめて困難となった。この点、電話会社は資金力ではまだまだ力がある。さらに、電話会社は、数年以内にインターネット型のデータ通信のトラフィックが音声電話のそれを上回ることが確実視される事態を認めざるをえなくなり、かつ音声サービスでもボイス・オーバーIPによる低コストのIP電話サービスが実用化されたことがきっかけとなって、ようやく重い腰をあげて、インターネット・サービスに本腰を選択をいやでも迫られる状態となってきた。
 彼らの多くは、手厚い規制に守られて、国内市場では依然として独占あるいは圧倒的なシェアを誇り、技術力では劣っても、資本力、価格競争力、マーケット支配力などの面で、インターネット市場においても無視できない強力な存在となってきた。先行したシンガポールテレコムをはじめ、オーストラリアのテルストラ、マレーシアのテレコム・マレーシア、韓国のコリアテレコム、香港のホンコンテレコムなどがその例といえる。
 第二の傾向は、自由化・規制緩和の動きである。マレーシアが98年前半に、シンガポールが後半に、それぞれ従来2社(マレーシア)、3社(シンガポール)に限定していたプロバイダー事業を大幅に解禁した。マレーシアは、既存電話会社に、シンガポールは条件を満たしさえすればまったく自由に、ISP事業免許を与えると発表している。とくにシンガポールの動きは、人口比で20%に達した利用率を、さらに大幅に高めることを狙う政府の戦略的な政策とみられ、フィンランドやスウェーデンなど欧米先進国なみの、人口比で50%を超える利用度にまで早期に到達することを目標にしていると思われる。
 また、これまで政府系の1社がISPビジネスを独占してきたインドでも、1998年後半に政府がISP事業の解禁に踏み切り、中小ベンチャー企業も含めて数十社が新規参入しようとしている。インド亜大陸では、パキスタンやバングラデシュなどがすでにISP市場の面では先に競争を導入してきたが、人口10億を越える大国インドがインターネット市場を本格的に開放したことは、同国の情報産業、とくにソフトウェア産業の国際的な実力を背景として考えると、中期的な意味で、グローバル市場に大きな影響を与えるようになることは間違いない。



2−2 主な電話会社の動向


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 アジアのインターネット市場の多くは、1990年代の前半に研究ネットワークを民営化した形で生まれた商用プロバイダーによって開拓されてきた。日本のWIDEから派生したIIJ、韓国のKAISTから派生したINET、香港の科学技術大学から生まれたスーパーネット、マレーシアの国立電子システム研究所(MIMOS)によるJARING、シンガポールのテックネットを母体とするパシフィック・インターネットなどがその代表例である。
 しかし、当初はインターネット事業を軽視していた電話会社も、欧米市場でのインターネット市場の発展動向などを見ることで、次第にその認識を改め、順次本格参入するようになった。
 シンガポールは例外的に、国策電話会社であるシンガポールテレコムが商用プロバイダーの第一号、SingNetを誕生させた。これはシンガポールテレコムの意志決定という以上に、インターネットを導入しようという政府上層部からの指示だったといわれている。その隣国のマレーシアは、JARINGの独占を打破するとして、テレコムマレーシアによるTMNETが96年11月に開始された。
 タイでは国営電話公社であるCATが、プロバイダーの認可条件としてすべてのISPに30%の資本参加(CATへの株式の無償割当)を義務付け、自らの「利権」の確保を行なってきた。CATは、98年後半にアジア大会を理由とした限定的なサービスという条件は付けたものの、インターネット・アクセスを自ら直接提供しようとして、他の民間ISPから反発を受けるという事態があった。
 香港でも、出遅れはしたが、ナンバーワンキャリアであるホンコンテレコムがプロバイダー・ビジネスに参入し、99年にはナンバー2であるスターネットを買収してシェアの3分の2を獲得するに至った。香港のプロバイダー協会は、この買収を認可した政府当局に抗議の声明を出し、電話会社によるISP市場支配への警戒を強めている。韓国でも、通信事業ナンバーワンのコリアテレコム、同ナンバーツーのデーコムが、いずれもISP事業に進出し、先行したINETを上回るシェアを獲得するにいたっている。
 オーストラリアでは、国営電話会社が民営化したテレストラが、インターネットでも学術ネットワークだったARNETを買収する形で、プロバイダーとしてもナンバーワンの地位を占めている。これに対しては、香港同様に、専用線の料金問題などをめぐって、他のプロバイダーから独禁法違反として訴訟が起きている。インドネシアでも、経済危機を梃子として、既存電話会社が中堅ISPの国際回線部分を「共用」する形にすることで、インターネット市場のヘゲモニーを取ろうという動きが続いているという。
 今後、独立系ISPは、より顧客志向を強め、実験的にでも付加価値の高い新規サービスを連続的に導入することで、先行利益を守りつつ生存を図るしかないと見られる。一方、電話会社側は、有力ISPの買収や、設備投資の増額などを通して、ダイヤルアップ主体の個人向け市場、専用線利用が主体の企業ユーザー市場の両方での主導権を取る動きを強めていくだろう。しかし、民族資本による電話会社は、他国にまたがる「国際」サービスを展開するだけの力をもっているところが少なく、米国などの強力な資本と技術力を備えたプロバイダー、あるいは大手通信会社のアジアへの参入にどこまで対抗できるか、厳しい試練が待っている。



2−3 欧米企業の積極進出


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 アジアのインターネット市場は、98年後半から欧米資本の積極的な進出が始まった。とくに米国のISPがアジア市場に参入を図ろうとしていることが目立つ。アジア太平洋地域では、AT&T社が香港の地域本社を拠点に、日本では子会社で日系企業と合弁のATT JENS社を通して、早くからインターネット・ビジネスを展開している。同社は、日本でのインターネットの商用プロバイダーの実質第一号で、最近も積極的にISPビジネスを展開している。
 これに続いて、米国で電話会社に支配されていない数少ない独立系ISPであるPSI社が、98年後半に日本と韓国、そして香港のISPを相次いで買収した。韓国の独立系ISPの雄、INETを皮切りに、日本のインターネット・サービスのパイオニアのTWICS、リムネット、そして規模ではIIJと並ぶ大手の東京インターネットが、いずれもPSI社によって買収されたのである。
 これは、PSI社が米国のジャンクボンド市場から調達した5億ドル(600億円)を原資としたもので、同社は年率10%という調達資金コストを上回る成長市場での事業への投資を必要としていたのである。同社は香港でも、子会社であるリンケージ社を通して、98年9月にホンコン・インターネット社を、12月にはアジアネット社を、相次いで買収した。今後同社は、タイ、フィリピン、インドなど、アジア地域のISPビジネスに積極参入することは必至とみられる。
 さらに、積極的な買収戦略によって米国の電話会社でも有数の規模となったワールドコム社が、アジアのインターネット市場に積極参入する姿勢をみせている。同社は、99年3月に香港に、同社のインターネット部門であるUU-Netのアジア太平洋地域本部を設置すると発表し、香港と日本で独自のISP事業を開始するほか、オーストラリアでは大手ISPのOzMail社を買収する形でISP市場への参入を果たそうとしている。
 このほか、マイクロソフト社は98年10月、同社のマイクロソフト・ネットワーク(MSN)を、世界の24カ国で新規に開始すると発表し、これまでの7カ国と合わせて、計世界31カ国で事業展開することになった。新規に追加された国のうち、アジアからは中国、ホンコン、台湾、マレーシア、ニュージーランド、シンガポール、韓国の7カ国が入り、これまでは日本だけだったアジア市場に力を入れようとしていることが明らかになった。
 これに対抗して、アメリカオンライン(AOL)が、遠からずアジアへのプレゼンスを強化することもほぼ間違いないと思われる。
 一方、シンガポールでは、1998年12月、第三位のISPであるサイバーウェイ社が売却された。これは、同社の親会社の一つであるシンガポール・テクノロジー社が、同第二位のパシフィック・インターネットを系列に収めたことで、競合するようになったために、新興通信会社のスター・ハブ社に売却することにしたものである。スター・ハブ社には、シンガポール・テクノロジー社と並んで、BTとNTTの外資2社が資本参加しており、この結果、間接的にだが外資んぽ資本参加が実現した。シンガポール政府は、これに先立つ98年10月に、ISP事業の免許条件を大幅に緩和し、外国資本も最高49%まで出資できることにしていた。こうした状況受けて、今後MSN、AOL、UUNETなどがシンガポール市場に進出することはほぼ間違いない。
 彼らはいずれも、自分たちの有力顧客である欧米系多国籍企業の世界展開に対応して、グローバルにワンストップ・サービスを提供することが競争上重要となり、たとえ個別拠点ではコスト割れになるとしても、世界の主要拠点を漏らさずカバーすることが必須となっている。米国という競争の厳しいマーケットで磨かれたことで、ISPビジネスに必要な高い経営ノウハウ、技術力を獲得し、世界市場に通用する高い競争力をもつことが彼らの強みである。
 一方、99年3月から4月にかけて、英国のブリティッシュ・テレコム(BT)社が、すでに合弁会社を組むことを発表しているAT&T社と連携して、日本テレコムに出資するなど、アジア市場に対して一層積極的な攻勢をかけているのは周知の通りである。同社のこの動きも、伝統的な音声電話市場ではなく、データ通信、とくにIPネットワークの新規構築を一義的にめざすものであることは言うまでもない。ホンコンテレコムの親会社、C&W社も、インターネット分野への進出は遅れたが、今後はアジアにIPネットの展開を図りつつ、インターネット市場に進出するとみられる。

 いわゆるポータルサービスなどのコンテンツ分野でも、欧米資本のアジア進出の流れが強まっている。この分野ではヤフー、ライコスなどが先行しているが、マイクロソフト社も世界120地域のポータルを追加したほか、ネットスケープ社のネットセンターも、98年10月にグローバル戦略の強化を発表し、アジアではまず日本とオーストラリアに新規サービスを実現した。同社の競合相手のアルタビスタは、すでにマレーシアにミラーサイトを設置しているし、インフォシーク、エキサイトなどの同業他社も同様の動きに出るものとみられている。



2−4 欧米メーカーの積極展開


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 機器メーカーの動きも活発化している。シスコ社は99年3月、向こう一年から一年半の間に、総額4千万米ドル(約50億円)をアジア市場に先行投資すると発表した。同社は98年にアジア市場で前年比40%増と、経済危機の影響をまったく受けない高成長を記録したばかりだ。同時期の世界全体の成長率が32%だったから、いかにアジアの成長率が高かったかがわかる。
 同社は、この発表にあたって「アジア地域のインターネットのトラフィックは、2000年の終わりまでに10倍の増加をみせる」という強気の予測を付加し、中国を中心に、自由化が実現したばかりのインドなどの市場で、さらに大幅な成長を見込んでいる。事実、98年だけでアジアのスタッフを2.5倍の600名へと大幅に増加させ、さらに、韓国、香港、ベトナムなどの販売拠点を拡大するほか、台湾の製造拠点を拡大し、ケーブルモデム、ADSLモデムなどの開発・生産を担当するなど、アジアにおける積極拡大戦略を明らかにしている。なお、シスコ社にとってアジア市場は全世界の10%のシェアとなっている。
 この他、IPネットワークへの動向としては、ルーセント、シエナ、ノーテルなどがいずれもWDMを中心に、中国、韓国などの市場に活発な攻勢をかけているのが目立つ。



2−5 アジアISP、米国への上場


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 最近のもう一つの注目すべき傾向として、ISPなどアジアのインターネット関連企業が米国市場に上場を図る動きがある。その先鞭を付けたのが、シンガポール第二位のISPであるパシフィック・インターネット(PI)社で、同社は1999年2月にNASDAQへの上場を果たした。米国の大半のインターネット関連企業が、少なくとも上場当初は利益が上がらず赤字続きであるのに対して、PIは最初から黒字での上場であったため、当初の1株17ドルが5月には80ドル近くまで上昇するという人気をみせ、インターネット株を物色する米国の投資家に対し、アジアのインターネット関連企業への関心を高めるきっかけをつくった。
 PIは香港の第一号商用プロバイダーであるスーパーネットを1996年に買収しており、今回の上場も香港の証券投資会社との連携で実現した。香港の証券市場は、米国の動向につられる形で、99年4月から5月にかけて地元のインターネット関連企業の株価が急騰し、さらに米国への上場熱を煽った。PIに続いて、香港の本拠をもつプロバイダーであるHKNetもNASDAQへの上場を計画していると伝えられている。PIやHKNetを扱うリーマンブラザース社は、米国市場での上場を検討しているアジアのインターネット関連企業が、さらに5社はあるといっている。  HKNetは中国系の通信・コングロマリットであるCTT社の子会社だが、同社の会長と社長が4月上旬にHKNetの株を自ら大量に買い入れ、その数週間後にNASDAQへの上場を発表したことから、「インサイダー取引」の嫌疑がかけられている。
 いずれにしても、今後アジアのインターネット関連企業は、豊富な資金を調達できる米国NASDAQでの上場をめざす傾向が続くだろう。ただし、PI社に対しては、NASDAQという米国市場での上場は、米国流の厳格なコーポレート・ガバナンスの適用を課せられ、主要株主・社外取締役会から、収益の維持・発展について厳しい注文がつけられ、実質的な経営権を奪われるか、あるいは成長が止まり収益性が落ちた時点で見捨てられるか、どちらにしても不本意な結果になるのでは、との見方もある。

 こうして、深刻な経済危機に見舞われたアジア諸国でも、インターネット関連のビジネスはむしろ経済回復の主要な担い手として期待され、それにこたえる成長を続けている。あえて気になる点をあげるとすれば、コンピューターの西暦2000年問題がインターネットのオペレーションにも打撃を与えるおそれがないか、という点である。
 これについては、APIAなどのインターネット関連団体が積極的に取組みつつあるが、他のインフラ業界と比較しても着手が遅れたこともあって、完全に問題点を克服できるかどうか懸念される。
 これらの試練に耐え、新しい技術の進化・発展を貪欲に吸収していくことで、アジアにおいてもインターネット市場はさらに飛躍、発展をすることが期待される。



2−6 アジアの法人利用とEコマースの実態


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 アジアのインターネットの企業利用は、市場全体の伸びに平行して順調に伸びているといえる。事実、インターネットを利用している企業では6割以上がウェブによる情報発信を行なうと回答している。目的別では、企業情報の紹介=広報がもっとも多く、90%を越えているが、製品情報の紹介も80%を越え、依然この二つが主流である。
 製品・サービスのサポートが50%、同販売が44%で、とくに前者の伸びが顕著である。一方、求人情報はあまり増加していない。この間の経済危機の影響で、採用そのものが停滞していることが大きな要因といえるだろう。

 電子商取引、いわゆるEコマースは、期待の大きさに現実がまだ追いついていないといえるだろう。実際に製品をオンラインで販売している企業は、インターネット利用企業のうちの24%と、まだ4分の1だ。ただし、今後への期待は高い。まだEコマースに着手していない企業で、1年以内に利用したいというのが30%、向こう2年以内に利用したいという意向を示している企業はちょうど半数に達している。これは2年前の調査に比べると3倍近い数字である。
 企業内でのネットワーク利用、いわゆるイントラネットを利用している企業は、すでに半数を越えた。その反面、実際にエクストラネットを構築して、企業間取引、いわゆるB-to-Bを実施している企業はまだ少ない。2年前に8%だったのが今回で12%と、微増にとどまっている。
 この2つの数字の間のギャップが、Eコマースの現状を物語っていると言えるだろう。つまり、期待は高いし、潜在的な可能性も十分に存在しているが、実際にEコマースを本格的に展開するのには、まだ時期が十分熟していないという状況である。
 これは現状では当然の結果といえるだろう。インターネットでEコマースが本格化するのは、十分な利用の蓄積が存在している必要があるが、インターネットを利用している年数は、アジアの企業全体では3年未満が70%と、まだまだ経験の蓄積が足りない。国別では日本が高いが、それでもEコマースの出足は鈍い。
 ただし、最近、各国で一般利用者向けのオンライン販売でも成功例が出始めており、また、B-to-Bでも、とくに欧米などとの貿易、企業取引にインターネットを利用して成功した事例が報告されはじめている。シンガポール、韓国、マレーシアなどの各国政府では、オンラインの認証制度などの法的体系の整備をほぼ完了し、本格的なEコマースの実現への準備は整おうとしている。あとは、企業側が積極的な展開をどこまでできるかにかかっている。



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