5 今後の課題
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1)ネットワークのガバナンス問題
インターネットを物理的媒体から切り離して、純粋に論理ネットワークとしてとらえると、その運用・利用にとってもっとも重要なのは、まさに当事者同士が協力することであり、その上でルーティングをどう実現し、IPアドレスを共用するための仕組みをどう設定し、相互接続をどう実現していくか、という点に帰結する。
この他にも、コンテンツ規制にしても、著作権問題にしても、ドメインネーム問題にしても、本質的には同様の分散・協調構造での解決が必要とされる。また、専用線ベースのサービスであるという意味で、国際回線の費用分担割合の問題、電話会社による伝送媒体・サービスの事実上の独占、あるいは寡占状態の続くなかで、インターネットのプロバイダーへの「公平競争」をどのようにして担保・実現していくかも問われる。
これらを総称して「インターネットのガバナンス問題」といい、インターネットの関係者を中心に、最近とみに国際的な関心が集まっている問題である。「だれがインターネットを管理・運用するのか」、あるいは「インターネットはだれのものなのか?」という問題である。いまのところ、議論が「ドメインネームとトレードマーク」の摩擦をどう解消するかに傾いている嫌いもあるが、ガバナンス問題は、ドメインネーム問題に留まらず、知的所有権をはじめ、コンテンツ規制、料金制度、相互接続方式など、ネットワーク運用上のほとんどあらゆる問題にまたがると課題といえる。
このガバナンス問題は、各国の国内で競合する企業・組織同士が協調してグローバルなネットワークをどう運用するかという意味で、それぞれの国・地域におけるインターネットの発展にとって決定的に重要な問題といえる。それはシンガポールにおいても例外ではない。
シンガポールでは、政府機関の協調体制が構築されつつあり、国内問題としては対処できるようにみえる。しかし、そもそもインターネットはグローバルなネットワークであり、したがってガバナンスにしても、一国の枠を超えた国際協調の枠組みづくりが必然的に求められる。この点でシンガポール政府の取組みは、ISOC、そしてITUベースでの動きなどを見ている限りでは、必ずしもシンガポールONEを支えるのに必要なだけの能力を発揮しているとは言い難い。
とくに、シンガポールONEは、通信事業としては、TASが主導する形で推進されているのだが、TASが従来の通信事業の規制官庁としての感覚をインターネットにしても延長して適用しようとして、AP-NICなどのインターネット・コミュニティと摩擦を起こした形跡は否定できず、分散協調を主導原理とするこれまでのインターネットのガバナンス方式と、電話などの通信事業でみられる、国家機関による中央集権的な管理方式とが、果たしてどのように整合できるかが問われている。
少なくとも、調査時点までは、インターネット関係者とシンガポールONEの関係者と間で、ルーティングを始め、ガバナンス問題についての会合はまったく開かれていない。筆者は調査・取材の際に、この点の必要性について関係者に指摘してみたが、TASやNCBを含めほとんどの関係者はそれを肯定し、口頭では「大変良い提案だ。たしかにそれは必要だ」と認めた。インターネットについての理解が浅いことについても、あえて否定しない姿勢も一部に見られた。
なお、本調査のまとめの時期になって、関係者の間で、ルーター総痔の接続を含めて協調的な取組みが始まるようになり、ガバナンス問題についての検討も始まる可能性が出てきた。プロバイダー3社は、それぞれ1-Netとの接続専用ルーターを、1-Net内に設置することを求められ、すでに実現したという。
なお、この点については、本調査そのものと、そこでの指摘が大きなきっかけとなったという声もある。仮にそれが事実だとすれば望外の喜びであり、シンガポールONEも相当柔軟な方向で発展していく可能性があると考えられる。
2)今後の展望と日本のかかわり
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シンガポールONEは、技術的にも、またそれを支える思想的な意味でも、実験的色彩が強く、成功の保証はない。かつ、シンガポールのもつ文脈においては、政治的、社会的な失敗は許されないという厳しい重荷を背負っているともいえる。しかし、それだけ意義ある実験といってもよい。
今後、少なくとも向こう2〜5年ほどは、1-Netの利用が進むほど、実質的にはIPプロトコルとWWWのプラットフォームによるアプリケーションが普及拡大することはまず間違いないとみられる。その利用の経験が蓄積されるにつれて、インターネットのガバナンスについても実用上の解決が求められるようになり、それによって、シンガポールONEは、ATMネイティブでのアプリケーションがそれほど大きな需要をもつものではなく、むしろインターネットの世界での発展へと適応していくというシナリオがもっとも可能性が高いと思われる。
なお、シンガポールONEに対しては、当初はあまり積極的な動きが見られなかった日本企業だが、NEC、JVCに加えて最近NTTも現地レベルで参加する方針といわれ、次第に積極関与するものとみられる。
現在日本でも、ADSLなどのローカルアクセスに関心がようやく集まりつつあり、CAN(コミュニティ・エリア・ネットワーク)として、地域主体で、利用者側からボトムアップ型で構築しようという動きも始まりつつある。シンガポールONEは、技術的には現時点では最高水準のものを組み合わせ、地域的には狭いエリアに集中的にインフラを整備し、高速ネットワークの環境をつくり、コンテンツとサービスを開発するという点で、世界的にも最先端を行く試みの一つであることは間違いない。
しかし、インターネットの位置付けや技術的な理解という点では、シンガポールONEが抱える問題点はけっして容易に解決可能なものとはいえない。今後日本を始め世界各国で、次世代のネットワーク構築を、従来の電話会社のパラダイムに沿って進めるのか、インターネットに代表されるコンピューター・ネットワークのパラダイムに沿って進めるのかという、主体とパラダイム問題として提起しているととらえられるからである。
その意味でも、シンガポールONEの進行過程とその帰結には今後も目を離せない。
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