はじめに
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アジアを襲っている経済危機は、いっそう深刻化しつつある。日本経済が不況から立ち直れない状況が続いていることで、先行きの不透明感はきわめて強い。こうした状況のなかで、とくに情報技術(IT)を主軸とした経済発展をめざす、いわゆる「情報化」については、経済危機の影響で減速が観察される反面、アジア各国政府の政策のなかでは依然として優先順位が高く、むしろ危機からの脱却を図る上で、情報技術に主導される新しい経済発展というシナリオへの期待は高まっているとさえいえる。
筆者自身、アジアでの研究活動を始めてから98年4月で丸一年となった。振り返ってみると、この一年のアジアは、まさに激動の連続だった。97年5月から徐々に進行し7月に顕在化したタイの通貨危機、インドネシアの山林火災とそれによるマレーシア、シンガポールのヘイズ(煙霧)被害、さらにインドネシアでの経済崩壊から暴動という動きは、だれが予測したであろうか。
この間、政治面でも激動が続いた。タイではチュアン首相に政権が交代、韓国は金大中氏が新大統領に、中国は朱容基氏が新首相に就任し、さらにインドネシアではスハルト大統領がついに退陣し、ハビビ新大統領が登場、フィリピンではエチェベリア氏が新大統領に当選するなど、この一年のアジアはまれにみる政権交代ラッシュであった。
本報告書では、初めに、アジア経済の全般の動向と、それが情報技術市場にどのような影響を与えつつあるかを、総論として考察する。続いて、アジア情報化の双璧をなす、実験開始後一周年を迎えたシンガポールONEと、サイバージャヤでの起工式からやはり一周年を迎えたマレーシアのMSC(マルチメディア・スーパー・コリドール)について、最近の動向、問題点などを取り上げて分析・報告する。「IPネットワーク」と総称されるインターネット型の新しい情報通信ネットワークの台頭にも触れた。
21世紀への移行を目前に控え、このアジアでの政治と経済の変化の底流で、情報技術を中核とする新しい経済発展モデルが、いわば陣痛期を迎えているのかもしれない。苦痛は相当に大きい。それだけに、もし新しい生命体が登場するのであれば、それに賭けられる期待には大きなものがあるのは自然のことだろうか。ぜひそう前向きに考えたい。
1998年6月
アジアネットワーク研究所 代表 会 津 泉
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