序章 問題の設定


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 まず、今回の会合の基本テーマである「ユーザーの要請:問題と障害」を含めた全体の検討課題と問題意識について、主催者であるアスペン研究所のチャールス・ファイアストン・プログラムディレクターから、基調となる問題設定が行われた。

 第1回のAIRITでは、米国のクリントン=ゴア政権が提唱したGII (Global Information Infrastructure)とそれに触発された欧州政府が提唱したGIS (Global Information Society)のもつ政策課題を中心に、GII推進に伴う社会的課題のハーモナイゼーション、その影響、政策などを議論した。その後、議論を重ねるなかで、最近は、従来型の電気通信産業とその競争政策などについての議論から、より今日的な、従来型の電話中心の回線交換技術に対する、最近のインターネット中心のパケット交換技術の登場、端的にいえば、「電話対インターネット」といった問題の設定が必要となってきた。つまり、インターネットが風を大きく変えようとしているといえる。
 こうした事態に対してどう対処するかをめぐっては、2つの永続的な哲学があるといえる。一つは、何もしないで手を引いていれば問題は自然に片付くという考え方であり、他方は、問題が起きる前に行動を起こすべきだという考え方である。我々は、意図的に後者を選択し、国際コミュニティにとって、もっとも重要な問題について、具体的な行動としてなにを提言できるか、を議論していきたい。


 この基調提案を受けて、参加者は各自の問題意識に基づいて、自己紹介を兼ねた冒頭発言を行ない、それらを通じて、インターネットが引き起こしている多様な問題のスコープが浮き彫りにされた。以下に主な発言の要旨を記す。

・ 80年代の通信事業は電話=音声系サービスが圧倒的な地位を占め、データ通信などの「非音声サービス」は、トラフィックが微小で重要でないといわれた。しかし、最近の汎ヨーロッパの新興通信事業者、アメリカのネットワーク事業者の出現は、すべてインターネットを中心とするデータ通信市場が目的で登場したものだ。

・ インターネットは、初期にビジネスを確立した事業者が現在の市場の主導権をもっているが、もうすこし合理的にすべき面が多々ある。政府による規制ではなく、「セルフガバナンス」原理に基づいて、国際的な協調を図るべきだ。

・ インターネットにまつわる様々な社会的な課題、制約については、まず技術的手段による解決を追求すべきだ。複雑な問題である電子商取引などにおいても、技術でなにをどこまで解決ができるかが、まずポイントとなる。その意味で、技術とポリシーのインタラクションは非常に重要である。

・ 新技術の周囲に、新サービス、ニュービジネスをどう発生・育成できるかも重要な課題である。とくにインターネット中心の新しいインフラの上に、新サービスがどう形成されるか、高速広帯域の次世代インターネットなどがどのような社会的な事業、サービスを形成するかを検討すべきだ。

・ 90年代のはじめのヨーロッパでは、新しい技術が社会的問題を起こすと考えている人はごく少数だった。それが、インターネット経由でのポルノ問題が発生すると、急になんとかしろという声が上がったという経緯がある。社会にとって、これまでのルールで十分なのか、あるいはまったく新しいルールが必要なのかをよく検討すべきだ。とかく新しいルールが必要だと決めがちだが、必ずしもそうとは限らない。

・ 規制問題については、次のような方法論上の二項対立が存在している。

 民間事業者のセルフレギュレーション   政府のレギュレーション
 国別の規制                国際協調での規制
 技術による解決             法律による解決
 消費者中心               供給者=事業者中心

 しかし、インターネットはグローバルな問題群を生んでいるのであり、これらの問題を処理できる新しい方法を探す必要がある。

・ インターネットを中心とする需要にこたえる通信のインフラストラクチャーの構築が重要な課題だ。とくに、アクセスラインを中心としたバンド幅のボトルネック問題に関心がある。インターネットによるパケットネットワークの普及は、回線交換技術を前提に組み立てられてきた旧来の考え方、規制や技術が、ボトルネックの原因になる事態を生み出したといえる。

・ インターネット・コミュニティが主張するように、自らによる「ガバナンス」が重要だが、産業界、コミュニティが自分でガバナンスできなければ、必然的に政府(ガバメント)が関与するようになるだろう。

・ ヨーロッパのインターネットのトラフィックは、まだ電話の1%に過ぎない。いま議論されはじめているIP(インターネット・プロトコル)によるサービスがリアリティをもったものになれば、事態は変わるだろうが、いまはまだ転換期といえる。

・ インターネットガバナンスの方法そのものが進化していくと考えられ、その進化の形態に関心がある。民間による自主的なガバナンスと政府による規制という二分法はあまり意味がないのではないか。民間の自主性が新技術・サービスの開発には決定的に重要だが、政府による政策が、開発・投資の促進につながることも事実であり、政府の機能は必要である。

・ 貿易の自由化を促進する上で、インターネットによる電子商取引の今後の発展は大きな課題となっている。とくに、従来のルールに変わる新しいルールがどう必要か、欧米、アジアなどの地域差も含めて議論すべきだ。

・ 文化面では、コンテンツの規制問題も国際的な課題となっている。ヨーロッパなどでは、特定の国の作品が一方的に流入する事態は必ずしも歓迎されない。オーディオビジュアルコンテンツの規制問題に関心が高い。

・ インターネットが、初期の特定の目的をもったネットワークから、あらゆる目的に利用される、メインストリームのネットワークへと変化するにしたがって、何が起きるかに着目している。ガバナンスの必要性については、「自由放任(レッセフェール)の考え方は、インターネットの世界では、ダーィン的な進化論アプローチといえ、結果として少数の勝者と多数の敗者を生みやすいという構造をもっている。この問題にどう対処するかに関心がある。

・ インターネットの可能性はおおいに認めているが、個人的に、インターネットには2つの大きな問題があると考えている。ひとつはインターネット上で入手できる情報について、真偽の判断をつけることが難しいということだ。もうひとつはポルノで、だれでもクリックをわずか2回するだけで、ポルノの世界に入れてしまう。

・ インターネットのプロバイダー事業者協会にかかわってきたが、インターネット・プロバイダーを中心にして、社会的にみてまだ「産業」としての体裁が整っていない段階といえる。政府による規制は、コンテンツにしても他の問題にしても、プロバイダーの法的責任にきわめて大きな影響を与えるものだ。

・ インターネットの発展に伴い、インターネット政策の国際化がきわめて重要となる。セルフ・レギュレーション、レギュレーション、ガバナンスの関係を明確化する必要がある。また、電子商取引では、国際的な環境のなかでの消費者保護が重要である。





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