はじめに 本ワークショップの意義


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 近年の情報通信技術の急激な発展は、世界がまさにひとつの地球共同体へと変化していく速度を加速しているものといえる。衛星技術によるケーブルテレビのニュース、海底ケーブルによる高速大容量通信、無線技術による携帯電話などにより、世界のどこにいても距離と時間を超えた通信が可能となり、世界の政治・経済・社会・文化活動はその影響を強く受けて、大きく様相を変えている。
 とりわけインターネットの急激な普及には顕著なものがあり、その利用者は近く1億人を超えるといわれている。それと同時に、インターネットを巡って世界各国が協調して取り組むべき課題もまた加速度的に広がろうとしている。
 インターネットのおかげで、パソコンと電話回線さえあれば、だれもが国境を超えて、瞬時に、またきわめて低いコストで、自由に情報を移動させることが可能となった。情報の受信に加えて、自らの発信、あるいは従来は考えられなかったような多様なサービスがネットワーク経由で可能となった。
 こうした事態に対しては、従来の物理的な国境と主権国家の存在を前提とした国際社会によって確立されてきた様々な社会制度は必ずしも有効には機能せず、次々に新たな問題が発生している。また、インターネットそのもの利用が拡大したことで、インターネットはビジネス活動にも個人の社会活動にも欠かせない重要なメディアとなり、インターネットに対する社会的な依存度は大きく拡大したといえる。ちょっと想像してみただけで、電子メールが丸一日停止すればたちまち仕事に差し支える可能性がある企業、あるいは経営者、社員の数は、全世界では相当のものがあるだろう。こうしていまやインターネットが安定的に運用されるかどうかは、企業活動にもその他の社会的活動にも大きな影響を与えることとなったことは否定できないし、今後はさらにその影響力は強まるに違いない。
 しかし、インターネットも当初は研究者による限定的なネットワークとして発達した歴史をもち、その管理・運用の制度、技術的な標準化などの面では、このような社会的な重要性の拡大に十分対応できる状態には必ずしも到達しているとはいえない。変化の速度があまりにも急激なために、インターネットを支える体制の整備が追いつかないというのが偽らざる実情である。

 米国に本部をもつ非営利組織であるアスペン研究所(Aspen Institute)は、早くから、情報通信と社会のあり方に関する政策課題についての研究に積極的に取組み、「コミュニケーションと社会(Communication and Society)」という研究プログラムを推進してきた。 そのなかでも、「アスペン研究所国際通信ラウンドテーブル(Aspen Institute Roundtable on International Telecommunications:AIRIT)」は、こうした国境を超えたコミュニケーション活動の発達がもつ社会的影響に着目し、1993年に開始されて以来ほぼ毎年開催されてきたプログラムである。これは、欧米・アジアの情報通信関係の政策立案の当事者、情報通信産業の経営者、さらに研究者などを招いて、インフォーマルな議論を土台として政策提言を行うことを目的とする国際ワークショップである。討議の成果は、『提言』という形で常に公表され、この会議で検討された課題が、後日形を変えて各国の具体的な政策の決定・実施に直接活かされた事例は少なくない。インフォーマルではあるが、まさにそれゆえに、実践的には高い意義をもつ会議といえる。
 その第4回目にあたる会議が、1998年9月に、神奈川県の湘南国際村を会場に、4日間にわたって開催された。これが「第4回アスペン研究所国際通信ラウンドテーブル(The Fourth Annual Aspen Institute Roundtable on International Telecommunications」である。今回はテーマを「インターネットの国際協調 ― International Coordination of the Internet」と定め、「ユーザーからの要請:問題と障害」を中心課題とし、それをさらに、1)ネットワークの機能性、2)電子商取引、3)コンテンツと文化価値という3つの小テーマによって構成される問題群に分けて検討を行った。なかでも、ドメインネーム問題など最近とくに議論が高まっているインターネットの運用における国際協調の課題が中心的に議論された。

 本報告書は、このワークショップでの議論をもとにまとめられたものである。個別の発言者の氏名については、本ワークショップのルールに基づきあえて記していない。また個々の内容および表現は、あくまで執筆者の責任の範囲でまとめたものである。
 個人的な事情になるが、筆者は本会議には、コロラド州アスペンで開催された第1回から招かれて参加し、97年に米国で開催された第3回の会議を除いて、他の3回にはすべて参加してきた。94年にはベルリンで第2回の会議が開催され、今回は初めて日本で開催されたものである。
 人数は全部で30名足らずで、しかし地理的にも専門的にも多彩な顔ぶれで、数日間、徹底的にインフォーマルな議論を行い、その成果を後日文書でまとめて発表するこのワークショップの方式には、多くの点で学ぶところが多い。会議の合間には必ず「エクスカーション」が挿まれ、バスでの往復や観光・散策の合間に、個人的な会話が弾み、それがさらに討議の内容を深めることに役立つ。
最後になるが、本会議への参加と本報告書の作成にあたっては、主催者であるアスペン研究所および日本のアスペン研究所の関係者諸兄姉、そして裏方を務められたスタッフの皆さんに大いにお世話になった。あらためて謝意を表するものである。


1998年10月


アジアネットワーク研究所  代表 会 津 泉  


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