第3章 フラグシップ・アプリケーション
[ 1節 ]
[ 2節 ]
[ 4章 ]
[ 目次 ]
MSCを立ち上げるためのインセンティブとして、個別分野に特化した「フラグシップ・アプリケーション」が企画され、大規模な社会実験の実施が予定されている。これらのアプリケーションは、「マルチメディア開発アプリケーション」と「マルチメディア環境アプリケーション」の2種類に大別される。前者は積極的に技術アプリケーションを新規開発しようというもので、後者は既存技術を応用しながら特定目的のための利用環境を整備しようという考えである。
マルチメディア開発アプリケーションは、電子政府、多目的ICカード、遠隔教育、遠隔医療の4つの分野に分かれ、97年7月に「概念提案募集(Request for Concept Proposal=RFCP)」という形で公募入札が発表され、10月に締め切られている。このRFCPは内外の民間企業に広くオープンな形での提案・入札を呼びかけたもので、応募企業は民間コンソーシアムを形成し、アプリケーションの技術基準、詳細仕様、さらに資金・運用計画などの総合プランを提案し、審査によって受注者が決定するというものである。
ここで理解が必要なのは、MSCのフラグシップ・アプリケーションは、いわゆる「公共事業」とは異なる本質をもっているということである。すなわち、政府は「口は出すが金は出さない」というのが基本方針で、たとえ行政分野のアプリケーションであっても、開発・運用の基本資金とそのスキームについては、参加する民間主体の責任とアイディアを柱にするという方式である。
これはMSC全体を貫く基本理念であり、政府は必要最小限の資金を投下するだけで「環境整備」を行ない、その環境を活用して開発・投資を推進するのは(そしてその利益を得るのは)あくまでも民間企業側であると強調されている。
マルチメディア環境アプリケーションは、ワールドワイド製造ハブ、ボーダレス・マーケティング、研究開発クラスターの三分野から構成されると発表されているが、97年12月時点までには具体的な内容は発表されていない。
これら7つのフラグシップ・アプリケーションは、次表のようにそれぞれ主要担当政府機関が決められている。
【表3-1 フラグシップ・アプリケーションの担当政府機関】

1 マルチメディア開発アプリケーション
1) 電子政府
電子政府は、フラグシップ・アプリケーションのなかでも、もっとも象徴的なアプリケーションと位置づけられる。マハティール首相自ら「サイバージャヤには真っ先に首相官邸を移動させ、官邸自身をペーパーレスオフィス化する。そうでなければ役所を本当に電子化することはできない」と公言している。
この電子政府を推進するスローガンには、米国のクリントン大統領がNII(全国情報基盤)構想を推進したときに使ったのとまったく同じフレーズ、「Reinventing the Government(政府の作り直し)」が使われている。単なる効率化ではなく、公務員・企業・市民の責任分担を根底から問い直し、サービスの水準を大幅に高め、マレーシアを先進国にふさわしい新しい社会構造へと変革するための触媒役を目指す壮大な構想である。
行政機能の電子化によって、市民が従来よりはるかに大量の政府の情報資源にアクセスできるようになり、より便利で応答がよく、質の高い行政サービスを享受できることが主な狙いとされている。同時に、政府省庁間のヨコのコミュニケーションの質・効率を高め、透明性を向上させ、コスト低減を達成することも狙いとされている。
こうして、MSC全体にとって、さらにはマレーシア全体の社会構造の変革にとって、電子政府は先例を示し、政府が率先してその推進にあたるという使命を帯びている。
97年7月に発表された公募要綱(RFCP)では、以下の5分野のパイロット・アプリケーションが提示されている。
1 行政サービスのオンライン化
2 政府調達の電子化
3 首相官邸のオフィス環境の電子化
4 公務員の人的資源管理情報システム
5 プロジェクト・モニタリングシステム
1 行政サービスのオンライン化
まず、以下の国民向けのサービスをオンライン化する実験から開始し、その結果によって順次他のサービスへと適用範囲を拡大する予定である。
・運転免許、車両登録更新手続きの電子化
・電力・電話などの公共料金のオンライン支払い
・厚生省のオンライン情報提供
電力、電話はすでに民営化されているので、「電子政府」のアプリケーションに含まれることには違和感はあるが、「公共料金」として考えられているのだろう。これらのサービスは、以下のような多様なアクセス手段を通して利用できるようにする予定とされている。
・公衆端末(キオスク)
・パソコン
・電話およびFAX
・インタラクティブ・テレビ
・高機能ATM(銀行端末)
これにより、利用者国民からは、「ワンストップ・サービス」、すなわち一カ所から集中的に多様なサービスが受けられるようになることが期待されている。
また、利用言語は、マレーシア社会の特性を反映し、マレー語、英語、中国語などの多言語環境で利用できるものとされている。
この実験は、以下の日程で実施される予定である。
【表3-2 電子政府実験スケジュール】

2 政府調達の電子化
政府による各種調達を、担当者のデスクトップからオンラインで処理できるようにすると実験である。業務効率の向上に加え、各種の行政手続きの透明性を促進し、情報開示を進める事によって、マレーシアでもとかく問題とされる談合や汚職などの防止、疑惑解消に効果を上げることが期待されている。
・調達業務(入札公募、検討、決定、発注、納品、検収に至る全手続きと関
連書類)の電子化
・担当官庁:
政府調達総務部門(BPPK)
大蔵省総務部門
行政近代化企画局(MAMPU)総務部門
・主な目的
契約・決済に必要な時間の大幅な短縮、効率の向上
調達物資の最適選択の実現と調達コストの引き下げ
責任の明確化と手続きの透明性の向上 国民への情報開示
資材などの在庫管理・会計管理の効率化
電子調達については、以下の3段階で実施される予定となっている。
【表3-3 電子調達実験スケジュール】

3 首相官邸 統合オフィス環境(Generic Office Environment)
首相が率先して政府の電子化に取り組むとの決意を表明しているだけに、このプロジェクトは重要な意味をもっている。サイバージャヤに建設中の首相官邸は、98年中に完成・移転が予定されている。
このプロジェクトでは、行政組織が一般に必要とするオフィス環境の電子化の実験を、首相官邸とその周辺組織の機能に特化したシステムで実験するところから始め、いずれ政府全体に拡大させることを目標とするもので、統一的なユーザーインターフェイスをもつ次の3種のアプリケーションから構成される。
・情報管理システム
・コミュニケーション管理システム
・共同作業管理システム
基本的にはLAN環境を整備し、グループウェアの利用を推進するプロジェクトと考えられる。
展開計画としては、98年1月から11月までを先導試行期間に指定して首相官邸、副首相官邸、その他の内閣関連の組織に導入し、11月前半に評価を行ない、それを受けて2000年までに、主としてプトラジャヤに移転する政府省庁を対象に、業務の電子化が進められる予定となっている。
【表3-4 統合オフィス環境実験スケジュール】

4 公務員の人的資源管理情報システム
政府職員の人的資源についての情報を、一元的なシステムで管理・利用しようというアプリケーションである。具体的には統一人事データベースを構築・運用することにより、以下の業務の電子化を推進しようというものである。
・採用・配属の電子化
・職務の決定
・組織構造のデザイン
・技能研修
その主な狙いは、以下のような点に置かれている。
・人的資源情報の効率的な利用により、効果的な人員配置、「適性規模=ライ
トサイジング」を実現する
・統一的な最新人事データを構築・運用し、省庁間を統合する総合人事計画を
実現する
・現在手動で行なわれている人事処理業務を自動化する
・省庁間にまたがるコラボレーション環境により、組織の縄張りを越えた円滑
なコミュニケーションと合理的なプロセスを実現する
このシステムの実験は、以下の日程で進められる予定となっている。
【表3-5 人的資源管理情報システム実験スケジュール】

5 プロジェクト・モニタリングシステム
政府の主要プロジェクトについて、進捗状況などを監視するモニタリング・システムの実験導入が予定されている。
このシステムの適用が想定されている主なプロジェクトとしては、電子政府プロジェクトそのものをはじめ、5カ年発展計画、その他の特別プロジェクトなどである。
その主な狙いは、省庁間に緊密な協力システム環境を実現し、プロジェクト監視とコミュニケーションの効率を向上させ、効果を上げることに置かれ、ペーパーレスな環境をめざしている。
全体は次の3つの異なるシステムから構成される。
・アプリケーション・サービス
目標・任務の設定、進捗状況の把握・評価
管理機能(分析・監視)・運営機能(状況報告)
・データベース・サービス
関連情報の電子的な一元管理
省庁間の情報の共有化、プロジェクト監視のノウハウ、追跡記録の蓄積・
共有
・コミュニケーション・サービス
関連組織を結ぶコミュニケーション機能
情報フローの自動化
このシステムの実験は、以下の日程で進められる予定となっている。
【表3-6人的資源管理情報システム実験スケジュール】

2)多目的ICカード
多目的ICカードは、最終的には全国民が保持・利用するようになることを前提として、国民一人ひとりがすでにもつIDカード、運転免許証、パスポートを含む出入国管理、医療健康情報、電子支払いなどの機能を集約したカードの利用実験を行なうというものだ。
「アクセスキー・アプリケーション」といって、ICカード上のアクセスキーを利用して、オンラインで対応するデータベースにアクセスして各種のアプリケーションを実行することも予定されており、そのなかには、雇用保険、選挙権登録、航空券のチケットレスシステム、学生証なども想定されている。このカードは、98年9月に開催される英連邦競技会(コモンウェルスゲーム)で実験利用されることが予定されている。
当初は一枚のカードですべてのアプリケーションが利用できるものとする予定だったが、関係者の調整がどうしてもつかず、少なくとも当面は、国民ID、運転免許、出入国、医療健康情報など行政関連データを収納した「行政カード」と、電子現金、デビットカード、クレジットカードなど、複合的な電子決済機能をもつ「決済カード」、電子キャッシュ専用の使い捨て型カードの三種類に分けられることになり、いずれ統合されることとされた。
基本的なプラットフォームは共通とされているが、発行は各銀行が独自で行ない、ネットワークの運用をいずれ統合するということになっている。現在マレーシアには、MEPSと、GREATATMという2種類の銀行カードのネットワークが運用され、決済機能の一元化について、金融業界の対応が一本化できなかったのがその大きな理由といわれる。
このICカード全体のプラットフォームについては、マレーシア国立銀行を幹事とする委員会によって選定が進められ、97年11月、カントリー・シナジー社というマレーシアの銀行業界の決済システムコンソーシアムが、ベルギーのバンクシス社の開発した「プロトン電子マネーシステム」をMSCの電子マネーの統一システムとする決定が発表され、今後は、この仕様に沿った支払システムが推進されることになった。なお、この決定に伴い、当初の提案締切が約1カ月延期された。
今後の日程は以下の通りである。
【表3-7 ICカードの実験日程】

3) 遠隔医療
遠隔医療は、MSCのフラグシップ・アプリケーションのなかでは、もっとも商用化に近いもので、大規模市場ができることが期待されるものといわれている。
遠隔医療についてのRFCPを見ると、通常いわれる医療・診断行為のネットワーク化にとどまらず、ヘルスケア教育、生涯健康プランなど、ヘルスケア全体を対象とする広範なアプリケーションを想定したものとなっている。
遠隔医療アプリケーションは、以下の4分野で推進されることになっている。
1 マスカスタマイズド・パーソナライズド健康情報・教育
2 医療成人教育
3 遠隔コンサルテーション
4 生涯健康プラン
1 マスカスタマイズド・パーソナライズド健康情報・教育
マスカスタマイズド・パーソナライズド健康情報・教育は、一般国民を対象にした医療情報の提供・利用を目的としたアプリケーションで、病気の予防、健康維持などを中心とした情報を、マルチメディア技術を応用した使いやすい方法で提供するものとされている。
全体では、「バーチャル健康コミュニティ」の創造が謳われ、健康に関する高度の最新情報をデータベース化し、自宅や職場などから簡単にアクセスできるものとされている。
2 医療成人教育
医療成人教育は、医療分野の専門家を対象にしたもので、遠隔教育の手法を活用することで、医学および薬学関連の各種の資格の取得に役立つアプリケーションを提供する。
これはさらにモジュラー遠隔教育、公式遠隔教育、バーチャル・リソースの3部分に分かれている。モジュラー遠隔教育は医療教育一般についての学習システム、公式遠隔教育は資格獲得に特化したシステム、バーチャル・リソースは、オンライン図書館やデータベースなどによる情報資源の提供である。
以上2つの実験の予定は以下の通りである。
【表3-8 健康情報・教育および医療成人教育の実験日程】

3 遠隔コンサルテーション
遠隔コンサルテーションとは、ビデオ会議を含むマルチメディア技術を応用して、遠隔地の小さな診療所の患者でも、都会の大病院の専門家などによる診断を受けられるようにするというものだ。考え方は米国や日本などで行われようとしている遠隔診断・治療と大差ないが、よりマレーシアの医療事情を反映し、海外との協力の可能性が強く打ち出されたものである。
これによって、たとえ僻地であっても、都市部の専門病院の医療スタッフらによる先進的な医療が受けられ、さらに、海外の専門医師にも指導やアドバイスを受けることが可能となるとされている。
MSCでのこの実験のおおきな特徴は、サイバー法の一部として「遠隔医療法」を新たに制定し、法的条件を積極的に整備して推進するところにある。従来の医療行為は、法律的にいえば、あくまで医師や看護婦らが患者と直接対面することのみが認められてきた。しかし、それでは、ネットワーク経由で患者の状況や患部の画像データを入手しても、直接的な診断や治療行為はできないことになる。
そこで、サイバー法の一環として「テレメディシン法」が制定され、遠隔地の医師でも一定の条件を見たしていれば医事行為の主体となることが認められるようになった。すでに成立しているこの法律では、海外の医師も、国内の認定医療機関と連携することで医療・診断行為に参加できるという条項が明文化されている。ただし、詳細については別途定められる政令によるとされ、具体的な運用方法は現時点では不明である。
遠隔コンサルテーションは、以下の日程で実験が予定されている。
【表3-9 遠隔コンサルテーション実験日程】

4 生涯健康プラン
生涯健康プランは、個々人の一生を通して、病歴や診断記録など、健康・医療にまつわるあらゆる情報を統一データベースで保存・運用し、いつでもどこでも、完全な情報に基づいた医療・健康管理の実現を目的とした実験である。
このプランは、「臨床支援システム」、「ヘルスケア情報管理支援サービス」、「個人生涯健康プラン」の3アプリケーションから構成され、それぞれオンラインで関連医療機関、行政機関に結ばれ、個人も自分の情報を利用できる仕組みである。
・臨床支援システム
臨床支援システムは、病院情報システム、臨床情報システム、意思決定支援システムなど、合計8種類のサブシステムから構成され、医療現場で最適な治療を実現するために必要な情報システムを集約したものとされる。これらの情報は、「電子カルテ」に一元化され、国民一人一人が電子化された医療記録をもち、適切な医療を受けるために利用できるようになる。
・個人生涯健康プラン
個人生涯健康プランは、「電子カルテ」をまとめた生涯健康記録を個人別に記録・集約・分析し、それによって予防注射の摂取、定期健康診断、リハビリテーション計画など、誕生から死亡に至る全生涯をカバーする医療・健康プランを個別に作成し、自ら利用できるようにするというものである。
ヘルスケア情報管理支援サービスは、臨床支援システムおよび個人生涯健康プランによって蓄積されるデータのセキュリティを確保し、統一的な利用が可能になるようにするとともに、これらの膨大なデータを統計的に統合・処理・分析することによって、医療・健康にまつわる予測と対策など、各種の施策の企画立案に活用できるようにするものである。
【表3-10 生涯健康プランの実験日程】

4) 遠隔教育
遠隔教育は、「スマートスクール」という名称で、全国90校の小中学校にコンピューターおよびインターネットの導入を行ない、教育へのコンピューター利用を推進するうえでの起爆剤とする考えに基づいて進められる先導実験プロジェクトである。
MSCを推進しようとするマレーシアに対して、内外の関係者から、「充分な技能をもった人材が圧倒的に不足している」としばしば指摘される。新しい時代を担うのに必要なスキルを備えた人材の供給は、質量ともに決定的に不十分といえる。こうした状況を意識した上で、国全体の抜本的な教育改革を進めるための触媒役として位置づけられているのがMSCであり、その柱としてのスマートスクールだといえる。事実、新聞報道などでも、スマートスクールに限らず、学校へのコンピューター教育の導入は、マレーシア社会を新しい時代に対応したものへとつくりあげていく上で重要だとして強調されることが多く、しばしば取り上げられる話題となっている。
スマートスクールそのものはMSC地区内に立地するのではなく、マレーシア全土に散在して「モデル校」を選定し、そこで先進的なコンピューター利用およびネットワーク利用教育を実践するという計画である。ただし、一部には過疎地でまだ電気さえ入っていない学校もモデル校に指定され、関係者の間からはどうやって進めていいかわからないという声も聞かれる。
具体的なスマートスクールの実験では、小中学校を対象に、生徒の学習活動、教師の生徒に対する評価活動、学校管理と教育行政という3分野にわたって情報技術を活用し、教育の質の向上と効率の改善をめざすものである。
実験システムとしては、
1 授業・学習用システム
2 評価システム
3 スマートスクール管理システム
という3種類のシステム開発が求められている。
1 授業・学習システム
授業・学習システムは、小中学校にマルチメディア技術によるソフトとハードを導入して、教育効果の向上と情報技術教育(コンピューター・リテラシーの習得)をめざすもので、マレー語、英語、数学、理科の4科目を対象にアプリケーションを開発する予定である。
当初は1999年にマレーシア全土の小中学校90校をモデル校として選定し、約8万5千名の学生を対象に実験を開始し、順次対象校を拡大し、最終的には2010年までに全国の小学校7000校と中学校1500校のすべてをスマートスクールにするという構想である。
しかし、マレーシアで現実に生徒にコンピューター・リテラシーを与えようとするためには、まず教師自身が自らコンピューターを使えるようにするところから始めなければならない。そこで、まず教師を訓練するための「マスタートレーナー」を育成し、彼らが教師を訓練し、その上で訓練を受けた教師が生徒を訓練するという三層構造を組み立てる必要がある。その上で、生徒向けの教育・学習教材の開発が予定されている。
2 評価システム
教師による成績評価を客観的、明瞭に実現し、生徒の立場に立った評価するシステムを開発・運用することが目的とされ、以下のサブシステムが実現される予定である。
・オンライン評価システム オンラインでテストの作成・管理・採点・分析
・生涯データベース 成績評価関連データを一元管理・利用するデータベース
・成績評価者訓練・認定サービス 成績評価の実施の専門家を対象に、評価
システムの管理・運用のための技能訓練、認定
3 スマートスクール管理システム
学校における授業・学習活動全体を情報技術によって管理するために、スマートスクール管理システムが開発される予定になっている。
このシステムには、以下のような機能が盛り込まれるものと想定されている。
・学校管理全般(スクール・ガバナンス)
・学生関連業務管理
・教育資源管理
・外部資源管理
・財務管理
・設備管理
・人事管理
・セキュリティ管理
・技術管理
RFCPでは、これらのすべてを統合し、自動処理も含む全体システムを提案することが求められている。同時にシステムの運用・利用のためのトレーニング計画も必要とされている。
またこれらの、教育・学習、成績評価、学校管理という3分野のアプリケーション全体を一体的に支える技術インフラとシステム・インテグレーション(SI)も、開発・運用が求められている。
「技術インフラ」には、ハードやソフトの設置だけでなく、ヘルプデスク、ユーザーサポートの設置、教育省のスタッフや選定された学校の職員へのトレーニングまで含まれており、参加・落札する事業者側にはまさに「至れり尽くせり」の対応が求められているといえる。
そして、SIを実施するのも企業の責任とされ、プロジェクト管理、ネットワーク運用、システム開発などを総合的に成功させる力量が求められている。
このスマートスクールの公募は、表のように二段階に分けられて審査されることになっており、最終的には相対的にはオープンなコンソーシアムの形成が予定されている。
【表3-11 スマートスクールの実験実施スケジュール】

2 マルチメディア環境アプリケーション
[ 1節 ]
[ 2節 ]
[ 4章 ]
[ 目次 ]
フラッグシップ・アプリケーションの第二の柱、マルチメディア環境アプリケーションは、ボーダレス・マーケティング、ワールドワイド製造ハブ、研究開発クラスターの三分野から成っている。
マルチメディア開発アプリケーションが、行政、教育、医療といった非営利分野へのマルチメディア導入を推進するものであるのに対して、このマルチメディア環境アプリケーションは、企業・産業界を対象としたもので、利用も推進主体も民間主導という特徴をいっそう明確にしている。
詳細はまだ明らかにされていないが、特定の機能をもったシステム開発を行なうというよりも、MSC地区に、特定分野のアプリケーションを推進する企業群を集中的に誘致し特徴をもった企業集積を実現しようというのが主な狙いである。
言い換えれば、MSCステータスというインセンティブと相俟って、民間企業による、高度な産業集積を実現を狙った戦略である。
1) ボーダレス・マーケティング
ボーダレス・マーケティングとしては、
1 テレマーケティング、
2 オンライン情報サービス、
3 電子商取引(EC)、
4 ディジタル放送
の四分野が想定されている。
これらの活動に特化した企業をMSC地区内に積極的に誘致することで、相乗的な集積効果の創出が期待されている。
1 テレマーケティング
テレマーケティングを事業とする企業にとって、MSC地区の安価な通信インフラ、労働力、多言語文化環境などが、アジア太平洋地域全体を対象とする活動に有利に働くとされる。
2 オンライン情報サービス
オンライン情報サービスに携わる企業にとっても、MSC地区の安価な通信インフラ、労働力、多言語文化環境などのメリットが期待され、さらに、海外向けの報道、情報発信については、これまで国立の報道機関に限られてきた規制が撤廃される予定である。
3 電子商取引(エレクトロニック・コマース)
電子商取引はインターネットの発展の推進力として、いまもっとも注目されている分野の一つであり、MSCでもその推進に大きな力を入れようとしている。とくに、ディジタル署名法、コンピューター犯罪法など、電子商取引の円滑な推進には欠かせない法体系の整備が進められていることが大きな特徴である。
4 ディジタル放送
衛星放送を中心としたディジタル放送も、MSC地区を拠点に積極的に推進されようとしている。この分野では、97年12月あるいは98年1月にも、「マルチメディア融合法案」が国会に上程を予定されている。これは、従来厳密に区分されてきた放送、通信、コンピューターの三分野の融合を前提に、新しい事業展開を可能にしようという狙いの法案である。ただし、まったく新しい観点から新規に立法を行なうという方針と、既存の法案の部分的な修正で済ませようという方針の二つが併存しており、実際には既存権益の再調整で終わる可能性もある。
また、メディアの統合と平行して、それらのメディアの規制官庁そのものを統合することが検討されている。すなわち、これまで通信を規制してきたエネルギー・通信・郵政省とその外局である電気通信庁、そして放送・報道機関を規制してきた情報省とが合体再編されるというシナリオである。
2) ワールドワイド製造ハブ
研究開発、設計、エンジニアリングから生産管理、物流までの製造業の活動全体にマルチメディア技術の応用を促進することで、設計・生産の統合、生産管理、品質管理などの一体化、効率化を促進しようというのが、ワールドワイド製造ハブの狙いである。MSC地区の大容量通信ネットワークを活用することで、膨大な設計データでも瞬時に移動でき、部品ライブラリーも容易に確立できるものと想定されている。同様に、MSC地区内に生産管理センターを設置することで、地区外の生産工場もネットワーク経由で効率的に管理し、ロジスティクス、物流面での合理化も達成できるという。
3) 研究開発クラスター
次世代のマルチメディア技術の開発を主軸として、情報技術産業の世界的な研究開発拠点を誘致・集積しようというのが、この研究開発クラスターの狙いである。計画では、2000年までに、少なくとも15の最先端のマルチメディア関連企業・大学等の研究開発拠点を集積させ、さらに10の海外国内企業による共同研究機関を誘致するという方針が公表されている。
そのためのスキームとして、
1 MGS(MSC補助金スキーム)
2 マルチメディア大学
などが用意されている。
1 MGS(MSC補助金スキーム)
MSC地区で集中的な研究開発を促進するために、政府による研究開発奨励金やその他の財政的なインセンティブが予定されている。政府によるマレーシア開発第7次5カ年計画(1996年〜2000年)では、政府の研究開発予算として総額10億リンギット(約350億円)の枠が確保されている。
そのうち、MSCに対しては、51%以上の国内資本をもつ企業に対して、50%の補助金を出すMGS(MSC Grant Scheme)という補助金スキームが用意され、政府予算として当初分2億リンギット(70億円)が確保されている。
このMGSの審査はMDCが担当することになっている。
2 マルチメディア大学
MSCで研究開発を推進する求心力をもつ拠点として、マルチメディア大学(MMU)の新設が予定されている。MMUは98年9月に開校を予定し、現在サイバージャヤの中心部の80haの予定地で造成建設が急ピッチで進められている。
このマルチメディア大学の経営母体として、当初は高速道路などのインフラ建設に強い企業グループ、レノン社が有力候補となっていたが、同社は引受条件として、政府に毎年2億リンギット(70億円)相当の補助金を出費することを要求し、政府がこれを認めなかったために、結果として、テレコム・マレーシア(TM)に委ねられたという。
TMは、新しい私立大学としてユニバーシティ・テレコム(ユニテレ)を、クアラルンプールの南200kmにある都市マラッカに97年6月に開設したばかりで、二つの大学を並行して運用することになった。当面キャンパスは、マラッカとサイバージャヤとの二個所に分散するものの、全体がマルチメディア大学として統合されるという見方が強い。
このユニテレは、マレーシア初の私立大学として97年6月に開校し、現在は1000名近い学生が在籍し、教育を受けている。学生は全国から公募され、20倍以上という高倍率で選抜されたという。
ユニテレは、工学部、情報技術学部、経営学部、メディア・アート・科学学部の4学部から成り、さらに大学院も併設されている。各コースは基本的には3年間で学位(BA)を取得できる。各学部を構成するコースは別表の通りである。
マレーシアでは、ブミプトラ政策といって、マレー人優遇政策が国の基本政策とされている。教育にあたってもこの政策はかなり厳格に適用され、たとえば国立大学の入学選抜にあたっては、人口比以上にマレー系学生が優先入学を許され、授業もマレー語で行なうことが定められている。
しかし、このユニテレは、マレーシアでは例外的に、ブミプトラ政策の適用がきわめて緩い。通常なら学生の比率はマレー系が70%前後であるのに対して、ユニテレではマレー系と非マレー系が約半々である。授業もすべて英語で行なわれる。MSCを意識して、政府が特別に許可したからといわれている。ただし、この事実は積極的には公表されていない。国是の適用を除外しているため、イスラム保守層などからの批判を配慮してのことと考えられる。
【表3-12 テレコム大学(ユニテレ)の学部・コースの構成】

マラッカのキャンパスを実際に訪れてみると、100Mイーサネットによる高速LAN環境が整備され、シリコングラフィックスなどの高性能ワークステーションも多数設置・利用されている。新入学生に対して最初からコンピューターによる実技の習得が積極的に進められ、CGの作品では短期間で相当高度の技術を習得する学生も現れている。また、インターネットも積極的に利用され、全スタッフの紹介はもちろん、コース内容の説明の他、教材そのものもホームぺージに豊富に用意され、さらに関連分野のリンク集もきわめて網羅的に用意され、開校わずか数カ月とはとても思えない充実ぶりである。ここではコンピューターの利用に消極的な教職員はまったく採用されないという。
サイバージャヤに建設されるキャンパスでは、企業との共存を積極的に推進することになっている。具体的には、企業のCG、アニメーションなどの制作スタジオ群をキャンパス内に設置し、CGのコースなどの研究室と隣接させ、学生も職員も、現場の高度な技術とビジネス環境を直接生のまま触れることができるような環境が実現されるという。インキュベーション・センターも数多く用意される予定となっている。
とかく人材不足が指摘されるMSCだが、このユニテレおよびマルチメディア大学の取組みは、そうした懸念を解消するための試みとしては、かなり高く評価されることになるだろう。
・他の大学も立地
なお、MSC地区内および隣接地域には、既存の大学キャンパスが数多く展開している。とくにUPM(ユニバーシティ・プトラ・マレーシア)は、前身は農業大学だったが、近年ハイテク分野に積極的に進出を図り、インキュベーション・センターを設置するなど、注目されている。他にも、国立マレーシア大学、MARA工科大学、マラヤ大学、マレーシア工科大学、マレーシア科学技術大学などが立地している。これらの大学同士での授業・単位の交換制度も検討されている。
・テクノロジーパーク・マレーシア(TPM)
ハイテク産業の誘致・集積という点では、MSC地域内に、すでに「テクノロジーパーク・マレーシア(TPM)」という、サイエンスパークが造成・推進されている。これは、MSCが登場する以前から、科学技術庁のプロジェクトとして推進されてきた組織で、情報産業に限らず、金型、ロボットなど、製造業へのハイテク技術の導入、開発を推進するための企業集積とベンチャー企業の育成をめざすものである。
TPMは現在は半官半民組織で運営され、企業誘致と平行して、多数の情報産業関連のベンチャー企業のインキュベーション、セミナーなどの共有施設の運用、敷地内高速LANの運用などが行なわれている。
なお、TPMは一期区域はすでに進出企業で完売となり、そのなかには、MSCの初期段階の企画立案の事務局役を果たしたMIMOS(マレーシア電子システム研究所)の本部施設も含まれている。
なお、TPMは、サイバージャヤができるまでの暫定措置として、MSC認定企業の立地が認められる地区の一つとなっている。ただし、上述のように一期区域は完売であるため、現在立地している企業が外部に移転しない限り、新たにTPMに進出することは不可能である。
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