オープン・ディジタル・ネットワーク(ODN)の本質


ODNの見直し─OCN導入を成功させるために



1996.8.28

会津 泉

(会津泉・ハイパーネットワーク社会研究所/国際大学GLOCOM)



1. ODNの再定義


2. OCN─その評価と展望


3. ODNの構成要素としてのCAN



GLOCOMでは、1992年後半頃から、次世代情報通信の基盤はインターネットを原型とする、コンピューターのネットワーク同士が相互接続された自律分散型ネットワークであると想定して、研究と提言を続けてきた。

そして1994年から1995年にかけて、次世代情報通信の基本形は、米国のエヌルネッサンス委員会が提唱した「ODN(オープン・データ・ネットワーク)」に求められると考え、日本でもODN型のネットワークの構築を追求すべきだとの主張を行なうに至った。このODNの一刻も早い構築こそが、日本の経済・産業、社会全体にとって何よりの緊急課題であり、通信事業者はそのために率先して戦略展開を考えるべきであると提唱してきた

この流れを受けて、NTTが1995年に世界に先駆けてODNの一バージョンと位置づけられるOCN(オープン・コンピューター・ネットワーク)構想の推進にいち早く踏切ったことは、きわめて重要かつ妥当な選択として高く評価できる。

現在、NTTはOCNの早期提供開始をめざして準備の最終段階に入っている。他のNCCなどにも同様の動きがみられる。ODNの一環としてのこのOCNの動きは全面的に加速さえることが、いまもっとも重要な課題といえる

そこでインターネットの世界的爆発という事態に直面するなかで、ここでODNの概念そのものについてあらためて見直しを行ない、その本質の確認・再検討を行なうことは、日本にOCNを成功裡に導入し発展させるために意義があると考えられる。



1. ODNの再定義


ODNの当初のコンセプト

エヌルネッサンス委員会が当初提唱した「オープン・データ・ネットワーク」とは、あくまでも技術コンセプト上のモデルであって、特定の実体が固定的に存在するわけではなかったことに、あらためて留意する必要があるだろう。

ODNは、概念的には、図1のような4層のアーキテクチャーをもち、インターネットがこれまでもってきた特性を最大限に確保しつつ、セキュリティ、スピード保証などの面で、インターネットの問題点の克服を目指し、特定の伝送技術に支配されずに、アプリケーションが自由に開花できる構造をもたせた、開放型の技術体系の全体を指すものと考えられる。

図1

オリジナルODNの4レイヤーモデル


ODNの特徴と意義

このオープン・データ・ネットワークの最大の特徴は、次の4つの面での「オープン」性に求めることができ、それにより、様々な利点が得られるようになると考えられる。

  1.  利用者にオープン

    ネットワークを構成する技術仕様がすべてエンドユーザーに公開されることによって、利用者自身の創意工夫が生かされる可能性が高まり、新規需要の創出につながる利用形態を自由に発展させることが可能となる。その一例としては、WWWとブラウザーの登場が、利用者自らがホームページを作成して積極的に情報発信を行なうことを可能にし、インターネットの発展の大きなきっかけとなったことがあげられる。今後は、パソコンやPDA(パーソナル・ディジタル・アシスタント)などのユーザー機器の価格性能費がさらに大きく向上し、「ネットワーク・コンピューター」の登場が予測されるなかで、利用者にオープンであるというこの特性は、ますますその重要性を増すと考えるべきだろう。


  2.  情報・サービス提供者にオープン

    ネットワークの普及にとって決定的な鍵を握るのは、「情報内容=コンテンツ」だと、よくいわれる。ネットワークを通信事業者の占有物にするのではなく、こうしたコンテンツの提供者、およびネットワーク上の各種の機能を利用したサービス提供者に対して、ネットワークの技術仕様や機能そのものを公開し、容易に利用できるようにすることは、きわめて重要である。それによって、実用性の高いサービスが早期に実現されやすくなり、事業化が加速できるからである。

    情報・サービス提供者とは、常により安い料金の通信サービスを求める需要者であり、通信・ネットワーク事業者と狭い意味での利害が相反する立場にある。しかし、彼らの事業が拡大することは、エンドユーザーにとって安くて多様なサービスが得られることになり、結果として通信需要全体の拡大につながる。その意味では、情報・サービス提供者は、通信・ネットワーク事業者にとって重要な顧客であると同時に、広い意味で利害を共にする立場にあると考え、共存共栄を図らなければならない。

    したがって、情報・サービス提供者に対してネットワークをオープンに提供し、彼らの利害が通信・ネットワーク事業者のそれと一致する方向に位置付け、需要創造の好循環を創出することは、戦略的に大きな意味がある。


  3.  通信・ネットワーク事業者にオープン

    ODNは、ネットワークそのものが基本的に分散協調型=「持ち寄り型」で構成され、あらゆるネットワークが相互接続されることを必須条件として成立する。当然、事業者同士も技術仕様をオープンにすることが求められ、競争は、その上での価格・品質・サービス性など質的な面で争われるようになる。

    この点、わが国の電気通信事業は、1985年以来、1種と2種に大別され、細分化されて存在しきたが、新しいODN型の通信市場を大きく開花させるためには、1種2種の区分の廃止を含めて、新規参入・競争を本格的に促進し、公平・無差別な相互接続を実現することが鍵となる。そのためには、技術仕様について、グローバルな次元で協調的に標準化を進め、その成果を積極的に公開することが重要となる。

    なお、ここでいう「オープン」とは、単に決定された技術仕様を「公開する」ということ留まらず、むしろ決定に至る過程そのもの、標準化のプロセスそのものを、希望するすべての人々・組織に対して開放するという、より積極的な姿勢を意味している。

    この点では、インターネットでの、IETF(インターネット・エンジニアリング・タスク・フォース)の活動が参照モデルとなる。IETFは、参加資格は一切制限せず、希望者ならだれでもその活動に参加できる。電子メールのメーリングリストによる継続的な討論を活動の中心的な場としつつ、毎年3回実際に会合をもち、投票は一切行なわず、全員の合意を重視する独自の意思決定システムを保持してきた。特定の利害をもった勢力=「キング」が決定を不当に支配することを排除し、全員の「ラフ・コンセンサス」と実際に稼働する「ランニング・コード」を重視することで、結果的にはすぐれて実用的な技術体系を、ITU/CCITTなどの国際標準機関の標準化より迅速に作り上げてきたといわれている。


  4.  将来の変化にオープン

    これまで描かれてきた通信事業の未来ビジョンは、多くの場合、特定の技術体系と、それに対応する特定用途のアプリケーションの組合せを前提とするものであった。個人間の通話を基本用途とする電話やFAX、あるいは、TV電話やビデオ画像伝送を基本用途に想定して、ATM交換機、光ファイバー伝送を根幹技術とするISDN、B-ISDNなどはその典型といえるだろう。

    しかし、技術革新のペースが極端に加速してきた昨今、5年・10年単位で特定の技術体系の発展を予測し、それに合わせた用途を想定し、技術開発を立案・実行するという方法は、根本的に無理があるものと考えられる。光ファイバーやATM交換機といったハード技術を前提に、特定用途でのアプリケーションを提供しようという技術体系は、進化の可能性に対してマイナスの拘束をもたらすおそれが高い。

    むしろ、パソコンやその発展形としての機器とソフトウェア体系の自由な発展を主軸に、アプリケーションの想定用途は利用者側に自由に開放し、伝送系の媒体も特定せず、光ファイバー、同軸ケーブル、銅線、固定無線、移動無線、衛星無線など、多様な媒体がいずれもディジタル化に伴ってそれぞれ発展すると考えるべきだろう。速度についても、高速回線から低速回線までを包摂すべきである。交換機も、回線交換機だけではなく、ルーター・ブリッジなどのLAN型の接続機器が発展・普及することを前提に、あらゆる技術的な可能性に対して柔軟に対応できるようにすることが重要であるといえる。

    その意味では、あらかじめ目標と手段を固定する工学的な手法よりも、オープンエンドな進化の可能性を許し、予測不可能な「突然変異」も幅広く許容するような生物学的手法に学ぶべきともいえるだろう。

    こうして、ODNとは、利用者にも、情報・サービス提供者にも、ネットワーク提供者にも、そして未来に向かう変化に対しても、すべてに対して開かれたネットワークであるといえる。技術の基本が「ディジタル」にあることを前提としつつ、この「オープン性」にこそ、ODNの最大の価値があるといえる。


ODNの機能・構造上の特徴

こうした開放型のネットワークであるODNは、機能上の特徴として

 ・階層的な交換機を通さない(水平分散型)
 ・一つの回線で多数の人が同時に使用可能となる(高速道路相乗り型)
 ・24時間、常時つながっている(専用線型)
 ・音声のみならず、テキスト、動画も自由に流せる(マルチメディア)
 ・テクノロジー・インデペンデント(テクノロジーとサービスが分離可能)

といった特性をもつと考えられる。

ネットワークの構造としては、交換機にネットワークのインテリジェンスを集中させた構造の、これまでの中央集権型の電話のネットワークとは対称的に、多数のLAN同士を、専用線とルーターを組み合せて対等に相互接続した、いわば「持ち寄り型」の分散協調型ネットワークで、ユーザー側にインテリジェンスをもたせた構造ともいえる。

ネットワークの性能についても、末端から末端までをフルに保証する「ギャランティード」なネットワークというよりも、自らの持分を中心に最善の努力を行なうが、保証はしない、いわゆる「ベストエフォート」型ネットワークで、それにより、経済的には安価でかつ効率の良い資源共有・多重化を可能にしてきたと考えられる。

料金体系の面でも、これまでの距離と回線利用時間に比例した「従量制」よりも、相互接続のための専用線の容量など、いわば「パイプの太さ」に規定されるような形での「定額制」が主流と考えられている。これには、コスト面で、伝送技術の進歩と持ち寄り型、メッシュ型の構造とがあいまって、「距離の死」(『エコノミスト』)と形容されるように、距離に必ずしも費用が依存しない技術体系が出現したことが大きく貢献している。

未来に向かうODNの基本ビジョンとしては、近未来の広帯域ネットワークは、電話に代表されるコネクション型の中央交換方式のネットワークに統合一元化するのではなく、インターネットのようなコネクションレス型の分散ネットワークに、さらに放送などの拡散型ネットワークの構造をも包み込んだ、いわば多元的なネットワーク構造が構築されるべきだという考え方がなされる。そして、この多元性の基礎には、これまでのインターネットの成功が実証してきた分散ネットワークの長所を最大限に生かしつつ、インターネットの弱点とされるセキュリティの強化や、ブロードキャスト型、バースト型のトラフィックにも対応できる品質の保証など、より柔軟で多様なネットワーク環境を実現しようという技術概念がある。


ODNの見直し・再定義が必要

GLOCOMでは、この間、インターネットを実際にフルに利用し、日本およびグローバルな発展状況を追跡調査し、分析することを通して、このODNを日本で具体的に構築するための方策と課題について研究を進めてきた。具体的には、高速回線(1.5M)でインターネットに接続するとともに、数人の自宅にも128kの専用回線を敷設して、コネクションレスのインターネット環境を文字通り24時間365日利用し続け、近未来のネットワーク環境についての利用経験を積み重ねてきた。これには、エンドユーザーとしてグローバルなインターネットの情報資源を利用するとともに、CU-SeeMe、MBONEなどの画像伝送実験にかかわったり、WWWによる情報発信、メーリングリストの構築・運用によるコミュニケーション型の利用にも努めてきた。

こうした経験と観察・研究の蓄積のなかから、ODNの基本的な概念モデルそのものについて、基本的な方向性の正しさをあらためて確認するとともに、以下に述べるようないくつかの点については、その見直し・再定義を行なう必要があると考えるに至った。


爆発する需要への対応を

検討の背景として、とくに1995年に入って、インターネットが従来の研究・教育用ネットワークとしての利用よりも、商用利用、一般利用の比率が飛躍的に高まり、利用が爆発的に増大しつつあることをあげなければならない。

WWWとブラウザー・ソフトが爆発的な普及をみせ、これが一種の「キラー・アプリケーション」となって、インターネット上での情報発信・検索・出版などの活動が、広く一般の個人や企業・団体に浸透していった。さらに、品質にはまだ問題があるとはいえ、音声や画像・動画の伝送のためのアプリケーションが普及の緒につきはじめた。

こうしたデータ量の多いアプリケーションは、たとえ利用者数が少なくても、ネットワーク上の総トラフィック量を大幅に増大させる効果をもつ。この結果、専用線による企業利用に加えて、ダイヤルアップ接続による個人利用が広がり、需要の急増をもたらした。

一方、供給側の対応は遅れた。プロバイダーのPOP(接続ポイント)の電話回線不足による話中の続発、専用回線容量の不足による速度低下、通信事業者側の回線設置などの設備増強への対応の遅れなどの現象が続発し、利用者の回線速度と料金体系への不満が大きく高まった。明らかに、需要が供給側を大きく上回る事態が現出したといえる。

社会的にインターネットへの関心が高まり、個人利用が急増するなかで、「電子取引(エレクトロニック・コマース)」やその主要構成要素としての「電子キャッシュ」が脚光を浴びるようになった。また企業内情報システムの分野では、インターネットの標準技術を社内システムに応用する「イントラネット」への転換が流行する兆しをみせはじめた。インターネット上でのホームページ作成、サーバー運用などを専門で事業化した新規事業者が登場した。プロバイダー事業に参入する新規事業者も増加し、「インターネット・ブーム」をさらに加速していった。

これらの現象は、総体としてはインターネットを基本モデルとするODNの方向性が一般社会レベルで広く支持され始めたものと解釈できる。同時に、これまでの通信やインターネットの技術では爆発する需要に追い付けないことが明らかになり、モデルとしてのODNのコンセプトの具体的な内容を吟味し直し、今後さらに増大する、大規模な実用利用の需要に耐えられるだけの技術開発とネットワーク基盤の構築を促進することが緊急の課題となってきたと考えるべきであろう。


「オープン・ディジタル・ネットワーク」へ

こうした事象を背景に、「オープン・データ・ネットワーク」という名称について、われわれは、略称は同じ「ODN」を保ちつつ、「オープン・ディジタル・ネットワーク」とあえて変更することを提唱するものである。その方が、「データ」という部分的、抽象的な用語よりも、今後の技術の本質を明確に反映し、ネットワーク技術の基本もディジタル技術にあるという認識を打ち出すことになるからである。

ISDNでは、ディジタル技術に「統合」の象徴としての意味を与えられていた。これに対してオープン・ディジタル・ネットワークでは、ディジタル技術はもはや「統合」の役を果たすべきではなく、まさに「開かれた」ネットワーク・アーキテクチャーを実現・普及させるための技術として考えるべきなのである。

通信がディジタル化されることの意義は、それによって利用者側で次々に喚起される各種のニーズに沿って、アプリケーションの形態を、きわめて柔軟に、自由に変えて行くことができるようになるところにある。特定の技術体系に特定の利用形態が支配されるのではなく、まさに利用者側の自由な使い方に応じて、どのような形態でも自由に対応できるネットワークの理念的な構造、それがODN=オープン・ディジタル・ネットワークの新しい概念といえるだろう。


ODNの課題と取組み動向

現在のインターネットが直面している課題とは、即ち「オープン・ディジタル・ネットワーク=ODN」の課題と言い換えられる。現時点で優先順位の高い代表的な課題としては、スケーリング=利用規模拡大への対応、高速大容量通信への対応、セキュリティ、情報内容表示機能などがある。以下、順にこれらの事項について検討した。


  1.  スケーリング(規模拡大)

    現在のインターネットでのもっとも大きな共通課題は、スケーリング、すなわち規模の急拡大にどう対応していくかということにあると考えられる。利用者数の増大、トラフィックの爆発による混雑への対応、セキュリティ対策、情報内容の規制問題などは、いずれも、インターネットの有用性が社会的に認知され、その利用規模が急速に拡大していくことに伴って顕在化してきた問題といえるからだ。

    まず、個々の利用者(単位ネットワーク)に与えられるアドレス空間の枯渇問題がある。これに対しては、IETFでいわゆるIPv6(インターネット・プロトコル・バージョン・シックス)という新しいプロトコルの標準化作業が進行中で、IPで使われるパケットのヘッダーの長さを、現在の32ビットから128ビットへと拡大することで対応することが確定しており、現在その実装作業が国際的な協調体制によって進められている。これと並行して、IPv6に移行するまでの間の過渡的対策にも取り組まれている。日本でもWIDEプロジェクトによる開発が進められ、世界初のIPv6の実験ネットワークが、WIDEによって96年6月に稼働を開始している。

    また、WWW利用の急増で、多数の利用者によるトラフィックの集中に対しては、「キャッシング技術」を導入することで、同一情報へのアクセスに対して、先にアクセスされた内容をネットワーク上に「一時保管」して、後からアクセスする人はそれを利用するという技術の実用化が進められている。リアルタイム性を要求される放送型あるいは高速通信のアプリケーションに対しては、エンド・ツー・エンドでの通信速度を優先的に保証するプロトコル(RSVP=ReSerVation setup Protocol)が提案されている。


  2.  セキュリティ

    商用利用に耐えられるだけのセキュリティーを高める取組みとしては、やはりIPv6の中に、パケットの内容を秘匿したり、発信元を確認できる機能が提案されている。また、電子決済のアプリケーションのプロトコルのレベルでは、ビザ・インターナショナルとマスターカードの間で統一規格SETが合意され、製品化が進められている。


  3.  情報内容の表示(PICS)

    インターネットの利用が大きく拡大した結果、1996年になって、インターネットの情報内容、とくに暴力や性的内容、政治関連の情報などに対して積極的に規制しようという政策的な動きが、各国で活発に現われるようになった。この問題に対しては、国や政府の検閲ではなく、利用者側が自主的に情報を選択できるようにすることを目的として、PICS(Platform for Internet Content Selection)という技術が開発されつつある。

    これは、WWWの標準化を進めているW3C(WWWコンソーシアム)によるもので、だれもがWWW上の情報について、情報提供者、あるいはまったくの第三者が、情報内容について、その内容の種別/程度などを自由に規定・表示できる基準をWWWのプロトコルに組み込むことで、利用者が必要な情報内容を自分で決めた基準に沿って選択して閲覧できる仕組みである。


ODNの成立要件─需要予測問題

ODNは、抽象的には変化に柔軟な多元的な分散ネットワークだといえるが、実際問題として、具体的に、いま、インターネットを、あるいはその発展形としてのODNを、文字通り日本中のあらゆる職場、あらゆる家庭に浸透させようと考えた場合、実際には何をどうすべきなのか。その基本的な諸問題を考えてみた。

おそらくもっとも重要かつ困難な問題となるのが、需要の予測とそれへの対応にかかわる問題だろう。

実際問題として、いつ、どこに、どの程度の需要が発生するのか。それはどう変化していくのか。それに対応する物理的な回線の設置は、だれがどう進めて行くのか。実際の技術としては何が有望・有効なのか。これらの問題は複雑に絡まり合い、ほとんどが未知数といってよい。


ISDN/B-ISDN構想の限界

この点、かつてわが国で発表され、推進されてきた「未来のネットワーク構想」には、ODNのような分散型ネットワークの普及はほとんど想定されず、需要量の予測もなかった。たとえばNTTが1990年に発表した「VI&Pビジョン」は、ISDN、B-ISDNを中核技術に、電話型のリアルタイム通信が中心となると想定されていた。音声電話を画像に発展させたTV電話や、TV会議システムなどがアプリケーションの中心となっていた。しかし、具体的に実際の需要として、どの程度が新しいディジタル通信のトラフィックとなるのかといった予測はほとんどなされていなかった。

一方、1994年5月に発表された電気通信審議会の「21世紀知的社会」答申でも、2010年までに光ファイバー回線を全国に敷設するという目標は掲げられ、その実現形態として「マルチメディア」という表現は多用されているものの、インターネットあるいは分散型ネットワークでのアプリケーションについては、明確には想定されていない。当然、通信トラフィックの需要についても具体的な予測はされていない。

日本に限らず、世界中の政府、PTT(郵便・電気通信官庁)、そして通信事業者・機器メーカーなどの通信産業全体が、インターネット型の分散ネットワークがこれほどまでに発展普及するとは、基本的にはまったく想定していなかった。95年2月にブラッセルで開催された「GIIサミット」で、ようやくインターネットに対する言及・関心が高まり、その後1995年10月にジュネーブで開催された「テレコム95」はインターネット一色といってよいほどだったが、いささか遅きに失したといってよいだろう。

彼らがこの間進めてきた交換機や中継・伝送技術にかかわる技術開発や、幹線のディジタル化、光化などの基本的な設備形態への投資は、基本的には電話型ネットワークの延長を想定して、実施されてきた。インターネット型のネットワークがこのままの勢いで普及し、通信トラフィックも同様に急増するという想定は、ほとんどなされていなかった。

この問題は、近い将来、相当深刻な問題になることが危惧される。なぜなら、通信の量、トラフィックの想定が現実の需要に対応できないものであれば、通信回線の容量そのものが社会的なボトルネックとなり、結果として「情報革命」の進展が大きく制約されることになるからだ。


インターネットのトラフィックの激増

インターネットのトラフィック量の伸びは、よく「毎月10〜15%」といわれる。これは、年率で約300〜500%に相当する。電話のトラフィックの成長率は、日本ではせいぜい3〜4%、米国でもせいぜい10%前後といわれるから、インターネットの伸びの大きさは目立つ。

最近になって、インターネットの実際のトラフィックの伸びが、電話会社の想定を大きく超える事態が明白になってきた。たとえば日米間の国際通信回線でいえば、現在最大のトラフィックを運んでいる事業者は、インターネット・プロバイダーであるIIJとなった。IIJは、96年3月、日米間にT3=45MBという大容量のバックボーン回線を契約・運用開始した。IIJでは、2本目のT3回線を年内に運用開始する予定である。これに対抗して、他のプロバイダーも、日米間にT3を導入する動きが続々と始まりつつある。東京インターネット、富士通系のInfoWeb、AT&T JENS、BTなどである。アジア諸国は、これまでは国際回線の料金構造が原因となって、すべて米国との間のみの国際回線を設置していたが、最近になって、IIJが香港、シンガポールのインターネット・プロバイダーと合弁でAIH(アジア・インターネット・ホールディングス)という会社を設立し、アジア諸国を結ぶバックボーンの設置・提供を開始した。一方、KDDがシンガポール・テレコムと提携して「アジアメッシュ(仮称)」を開始し、BTとMCIがNTTデータ通信などと提携して「グローバル・ワン」を開始するなど、アジアをめぐるインターネットの接続サービスそ、そのための国際バックボーン回線の利用は急増する勢いである。

日本の国際通信3社は、こうした事態をまったく想定していなかったという。このままインターネットのトラフィック急増が続けば、95年に新設された太平洋海底ケーブル「TPC-5CN(http://www.kdd.co.jp/press/120.html参照)」も、現有設備容量のままだと予定時期以前に飽和に達し、次の幹線である「TPC-6」が完成するまで、日米間の回線容量の不足が起きる可能性も出始めているという見方もある。

インターネットは、WWWによるホームページの提供・利用の急増を受け、トラフィック量の激増状態が継続的に続いている。日本では、95年から96年にかけて、パソコン通信の大手であるNIFTYやPC-VANが、インターネットと直接接続したことで、一挙にそれぞれ100万人以上の会員がインターネットを利用できる環境が出現した。

ここでもトラフィック増加への対応が大きな課題となる。たとえば電子メール一つとっても、NIFTYなどパソコン通信の会員とこれまでのインターネットの利用者との間の相互の発信受信が増え続け、96年年頭には、NIFTYやベッコウアメなど多数の会員を要するネットワークでは、急増するメールをメールサーバーが処理しきれなくなり、メールの配達が2、3日遅くなったり、配達されないで返送されるといった現象が出現した。インターネットには、相手が受け取れない状態のときには、一定の時間を置いて何回も再送をトライするという仕組みがあるため、混雑がさらに混雑を生むという悪循環、いわゆる輻輳状態が発生することになる。

個人同士のメールに加えて、メーリングリストによる同報メールの増加も、トラフィック増に拍車をかける。たとえばGLOCOMでは、96年2月に「ネティズンTVスペシャル」という、日本におけるインターネットの発展をテーマとしたTV番組の企画・制作にかかわったが、番組放映の1週間前に、専用メーリングリストを立ち上げ、約800名ほどの参加者を得た。このリストには、最盛期には1日で50〜100通前後のメッセージが送られた。単純計算すると、800×100=8万通のメールをGLOCOMのサーバーから外部に送付する作業が発生したことになる。仮に1秒あたり100通しか処理できないとすると、このリストの処理だけで800秒=10数分の負荷がサーバーにかかることになる。

利用者を多数かかえるプロバイダーでは、1日数十万ないし数百万通分のトラフィックが容易に発生し、メールサーバーの処理能力が足りなければ、そこがボトルネックになる。

WWWの人気は、混雑に拍車をかけている。たとえば朝日新聞のサーバーが米国に設置されただけで、アクセスが1日数十万と集中し、日米間の回線混雑の大きな要因となった。この問題自体は、その後日本国内に、まったく同一内容の情報を蓄積・提供する「ミラー」サーバーを設置して負荷の分散をはかることで解決されつつあるが、専用回線の料金をはじめ、サーバーのトータルな運用コストの面で、「内外価格差」が存在する限り、同様の問題は常に発生する可能性がある。

WWWは、同一の情報資源に多数の異なるユーザーが繰返しアクセスすることが基本であり、かつ相互に張られたリンクを経ることで、実用上の目的が具体的にはとくになくても、距離、位置に無関係に、広範な情報資源へのアクセスが発生する。ネットワークのトラフィック効率という視点だけから見れば、かなり資源の無駄使いとなる。しかし、ユーザーはそういう事情にはおかまいなしに、「ネットサーフィン」を楽しむ。

最近は、リアルオーディオ、ストリームワークス、CU-SeeMeなど、音声や画像を、放送型で多数の地点に簡単に送受信できる技術が普及し、人気を集めている。これもトラフィック増加の大きな要因となる。必要とされる単位時間あたりの伝送量が、文字情報に比べて大幅に増えるからだ。M-Boneという多地点同士の画像伝送技術を使う際に、ユーザー側で設定するだけで、バックボーン回線の容量の大半を瞬時にして消費してしまうことさえ簡単に起きてしまう。

エンドユーザーが直接利用することによって発生するこれらのトラフィックに加えて、ネットワーク上のルーターなどが定常的に発信する経路制御情報など、ユーザーから直接は見えない管理情報も、利用の増加、接続されているコンピューターの増加に伴って、当然増加する。


需要増加への対応策は

今後、いま話題の電子取引、ECやCALSなどが実用化されれば、企業利用を含めて、インターネットの利用は、さらに加速度的に増加することは間違いない。全体のトラフィックは、まさに指数関数的に増加し続けると見るべきだろう。少なくとも潜在需要の強さは、明らかである。これらの需要増加に対して、通信回線の中継・伝送や交換の設備や技術は、現在の想定で対応できるのだろうか。よくいわれる、ATM技術で万全だというのは、必ずしも妥当とはいえないだろう。

インターネットのような分散型ネットワークにおいては、これらのトラフィックの発生・増加のパターン自体が、電話型ネットワークのそれとは大きく異なると考えるべきだろう。そうだとすると、本格的なODNの構築にあたっては、トラフィック・パターンの想定方法そのものも大きく変える必要がある。物理的な通信回線の容量設計や設備の設置計画も、当然変えられなければならない。

電話型ネットワークのための回線容量とODNのための回線容量とでは、利用者一人あたりに換算して、おそらく2桁程度の違いが出るとみるべきだろう。電話ならディジタル換算で30kビット程度あれば充分だが、インターネットでは、パソコンをLAN経由でインターネットにつなぐだけで、一人あたり最低でも1.5M欲しくなる。これは、電話の50倍の帯域に相当する。いまはLANの標準が10M程度だが、近い将来100Mになる。となると、いずれインターネットで必要な一人あたりの帯域も10Mから45M位でも当然となるだろう。また、電話なら一回線の一日あたりの利用時間はせいぜい平均10〜15分程度と言われているが、インターネットの利用時間は長く、一人一日で1、2時間は軽く使ってしまう。サーバーになれば、常時接続されているのが当り前だから、利用とトラフィック・パターンはまったく違う。

こうなると、ただ単に光ファイバー回線を敷設すれば十分だというのではなく、どの位の処理能力をもつ交換機あるいはルーターを、どこにどう配備すべきか、幹線ネットワーク同士の相互接続の方法や形態はどうするのかなど、ネットワーク全体の処理能力とその分布方法が問われてくるだろう。


ODNとATM

通信の高速大容量化については、これまでの電気通信業界では、一般的には、ATM交換機による解決が主流になるとみなされてきた。ところがインターネットの世界では、いわゆる「IPとATMの相性の悪さ」が問題視され、必ずしもATM技術が万能の解決策にはならないとの見方も強い。

ATMは、実際にインターネット型のネットワークで利用しようとすると、可変ビットレート(Variable bit rate)に十分対応できないと指摘されている。また、音声、画像、テキスト通信など多様なトラフィイク特性をもったサービスを一つの回線・交換機の体系に統合しようとする方が回線が有効に利用できるという想定だったが、実際には、異なるトラフィック特性のものの構成比が1対10以上になると、いわゆる大群化効果が出ないということも指摘されている(東京大学・斎藤忠夫教授らによる)。

現在のATM交換機は、基本パケット長を48ビットとして標準化された。パケット長は、リアルタイム性を重視した音声電話・画像通信系の特性からいえば、短いほど有利であり、一方コンピューター通信の特性からいえば、長いほど有利であるため、両方の勢力の主張の中間をとって決めた、いわば妥協の産物だといわれている。そのため、結果としては、音声・画像通信にもコンピューター通信にも最適とはいえない中途半端なものとなったといわれる。

また、音声や画像などの通信の場合には、セルが到達しないなど、途中で信号が失われても、セルを廃棄してしまえば、「雑音」が多少あっても実用上の問題ほぼ支障なく利用できるが、コンピューター通信の場合には、パケットが到達しなければ再送を要求するのが常套手段とされるが、高速での伝送の際に再送が重なると、実際の通信効率が大幅に低下するといった問題も指摘されている。

こうして、ATM交換機のみにこだわるよりも、むしろ最初から高速大容量のインターネット型の通信を志向した高速ルーターの開発をこそ重視すべきだという意見もある。

いずれにしても、技術革新のきわめて激しい状況のなかでは、「最初にATMありき」的な、まだ実証されていないうちから、特定技術をあらかじめ理論的な「チャンピオン」と固定するのではなく、まさに多様な技術に柔軟に、開放的に対応できるスタンスが重要といえる。

加入者回線の伝送技術においても同様のことがいえる。家庭で動画を双方向で自由にやりとりできるためには、現在の圧縮技術の水準であれば、最低1.5M、できれば6M程度の帯域が必要といわれている。しかし、これを現在の技術水準の中で、たとえば月額数千円程度の価格で提供することは、実際には不可能に近い。CATVの同軸あるいはハイブリッド回線を利用した「ケーブルモデム」によるインターネット利用が注目されているが、すくなくとも実装レベルで、上下とも数メガの速度を多数の加入者が同時に利用できるという明確な見通しはたっていない。

最近では、ディジタル無線の応用、低軌道衛星、飛行船などの通信技術についても、一定程度その可能性に期待がされるなど、特定技術をあらかじめ選定することは難しい。この点でも「オープン・ディジタル・ネットワーク」の「オープン性」が重要であることをあらためて強調しておきたい。


ODNを巡る海外の動向

95年から96年にかけての世界の情報通信産業の動向のなかでもっとも顕著に現われた現象が、インターネットの爆発的な成長に対する認知がなされたことと言えるだろう。

その一つの象徴が、95年10月にジュネーブで開催されたITU主催の「テレコム95」であった。ここでの最大の話題がインターネットだったといわれ、展示会場にはマイクロソフトをはじめとして、従来登場しなかったコンピューター・メーカーが出展し、インターネット関連のプログラムに多数の人が集まったという。

世界的なインターネット・ブームの爆発のなかで、とくに1996年に入ってからは、電話会社やCATV会社の間では、インターネット市場への参入の動きは一気に加速している。しかし、米国でも欧州でも、電話会社を中心とする主要な既存通信事業者の間で、ODN的な構想を明確に、かつ全面的に打出しているところは、まだないといってよい。


・電話会社がインターネットに本格取組み開始

AT&T、BTなど世界の主要な電話会社は、95年から96年にかけて、ようやくインターネットの普及の可能性を認め、事業に積極的に取り組むようになった。

米国の長距離通信事業者の中で、早くから積極的にインターネットに関与してきたのはMCI社とスプリント社である。米国のインターネットの基幹ともいえるNSFNETのうち、国内のバックボーンはMCIが、海外との接続はスプリント社が担ってきた。商用サービスの開始はスプリント社の方が早く、92年4月にSprintLinkのサービスを開始している。

MCI社は95年3月、予定より2カ月遅れて「インターネットMCI」サービスを開始した。このサービスには、電話回線および専用線によるアクセスサービスの他、種々のソフトウェア、「マーケットプレースMCI」と名付けられたサイバーモール、コンサルティングなどの付帯サービスも含まれている。ダイアルアップによる接続料金は、月5時間以内は9ドル95セント、それ以上は1時間2ドル50セントの追加料金という体系になっている。

95年8月、AT&T社はインターネット市場への本格参入を発表した。サービスの名称は「ワールドネット(WorldNet Services)」で、ネットスケープ社や大手出版企業のマグローヒル社、インターネット上の情報を探すディレクトリ提供で知られているマッキンレーグループ、ネットワーク上で情報検索を自動的に行うエージェント型のソフトを開発しているバリティ社などと提携した。

ワールドネットは積極的なビジネス展開を続け、96年2月には新しいキャンペーン計画を発表し、96年一年間の「トライアル」と条件付きながら、AT&Tの長距離電話の顧客に対して、インターネット・アクセスを、毎月5時間まで無料、それ以降も1時間につき2ドル50セントという低額での提供を開始した。また、これとは別に月額19ドル95セントという定額アクセスサービスも提供している。同社自身の発表によれば、こうした積極的な価格攻勢によって、9週間で15万人の新規顧客を獲得したという。

米国の地域電話会社にも、ISP事業への参入を開始するところが出てきた。95年5月、パシフィック・ ベル社は、カリフォルニア州サンフランシスコ、ロサンジェルスなど数地域でインターネット接続サービスを開始した。同社のサービスは、回線からハードウェア、ソフトウェアまで必要なものを一式提供するというもので、接続の繁雑な手間を省き、簡単にインターネットに接続できるようにした。

RBOCSでこうしたサービスを提供するのは初めて同社が初めてだった。料金は専用線サービスで月525ドル程度。同社は96年5月には、AT&Tなどの攻勢を受けて、ダイアルアップ・ユーザーに対して1カ月限定の無料サービスと、月額20ドル以下の定額料金制を導入している。

RBOCSではUSウェストも、95年10月から子会社を使ってインターネット接続を含む各種サービスの提供を始めている。独立系のGTEも同様に、インターネットサービスを開始している。他のRBOCSも、順次インターネット接続サービスに参入すると見られる。


・既存プロバイダーと電話会社の競争の激化

現在、インターネット利用の急増のために、通常の電話回線経由でダイヤルアップでのアクセスが急激に増加しているという。電話会社自身によって、実際に既存の電話回線を通る通信トラフィックのなかで、インターネット型の利用の占める比率が急増していることが確認され、それがインターネットへの対応を急ぐ有力な要因となっているとみられる。

とくに、米国などでは市内の電話アクセス料金は基本料金に組み込まれ、事実上無料あるいはごく低額ですむため、高速モデムをつないでプロバイダーのPOPに長時間インターネットアクセスをする利用者が急増しているという。

先述したように、米国ではAT&Tなどの電話会社が、ダイヤルアップでの加入者アクセスを一定時間無料で提供するといった方法で、インターネット接続事業における競争を激化させている。このため、UUNET、PSI、NETCOMなど、先行してきたインターネット・プロバイダーの間には、個人向けのサービスからは撤退し、専用線中心のビジネスユーザー向けにターゲットを絞るなどの動きも出始めている。このままの状態が続けば、既存の中小プロバイダーは、大きな資本力をもって参入する電話会社やCATV会社の力に屈伏し、プロバイダー市場全体の統合整理の可能性が近付いているとの見方が強い。

MCIでは、同社のバックボーンにおいて、現在の成長がそのまま続くとすれば、2000年には音声トラフィックとデータ通信(インターネット)のトラフィックの比率が逆転すると見ており(ビント・サーフMCI上級副社長)、インターネットのバックボーンの高速大容量化を急ぎ、96年内にも米国内で620Mのバックボーンを稼働させる予定だという。

ベルカナダでも、現在の電話のトラフィックのなかで、実際にはインターネットへのアクセスのためとみられる利用が毎月10%もの勢いで伸びており、このままの勢いが続くと、近い将来、市内電話網・交換機の容量が大幅に不足することを恐れている。同社では、96年6月、ADSLによるインターネットアクセスの提供サービスを年内にも開始すると発表した。


・ヨーロッパなどの動向

アメリカ以外の各国の動きも急激に展開している。

英国のBTも、毎月5時間までの無償提供サービスを、96年5月から8月までの3カ月の期間限定で開始している。BTはまた、MCIやNTTデータ通信などの事業者と提携して、世界中に「ワンストップ・ショッピング」型のインターネットサービス「グローバル・ワン」を展開する構想を96年6月に発表した。イタリアでも、電話会社が国内最大のISPを買収すると発表された。

シンガポールでは、すでにシンガポールテレコムが、インターネット事業に真っ先に乗り出している。マレーシアでも、これまでは、国立の研究機関であったMIMOSが、唯一のインターネット・プロバイダーだったが、近々マレーシア・テレコムの参入が予定されている。


・OCN的なサービスはまだ

ただし、これらの電話会社のインターネット市場への参入の動きも、大半は専用線・アナログのダイヤルアップ接続・ISDNによるディジタルのダイヤルアップ接続など、既存技術を導入したものが大半である。そのなかではADSLが注目され始めている。ベル・カナダが銅線による1.5M程度の通信としてADSLを提供すると発表した他、シンガポール・テレコムもADSLの採用を検討しているようだ。

OCNのような、これまでとまったく技術およびサービス・価格体系の異なる概念を実際のサービスとして提供しようという動きは、まだほとんど見られないが、いずれ登場するものとみられる。


・CATVのインターネット参入

米国ホワイトハウスで情報インフラ政策を推進・担当しているトム・カリル全米経済協議会部長は、1996年3月末に来日した際に、「電話会社はインターネットに対してどのような技術で対応すればよいか、技術的な選択肢は色々あるが、まだ混乱している」と語るとともに、「CATV事業者は、インターネット一色といってよいほど、インターネット提供を新規事業拡大のチャンスとしてとらえ、いっせいにその方向に動こうとしている。」とも述べた。

CATV上でインターネットを可能にするために不可欠なケーブルモデムの開発は難航しており、また、少なくとも米国ではケーブル回線そのものの品質に相当問題があり、多数の家庭に対して上り下り対称で高速回線を実用に耐えられるだけの経済的なコストで提供するようになるには、まだかなりの月日を要するとの見方も少なくない。

CATVによるインターネット・サービスへの取組みとしては、CATV全米最大手のTCI社が、@ホームネットワーク社という子会社を設立し、@HOMEと@WORKという2種類のサービスでの参入を表明している。現段階では「ベータテスト」実験中ということで、具体的にいつから本格的にサービスを提供する予定なのかは、一切明らかになっていない。

96年6月初め、ケーブル業界の大手でセルラー電話事業、TVショッピング(QVC)なども手がけるComcast社とCATVで全米5位のCox社が、@ホームネットワーク社に資本参加すると発表した。この3社によって、全米の40%に相当するエリアがカバーされることになるという。Comcast社は、CATVによるインターネット・アクセスを96年の後半には開始できると発表しているが、詳細な日時や価格、地域などは明らかにされていない。




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