3. ODNの構成要素としてのCAN


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1. ODNの再定義 ] [ 2. OCN─その評価と展望 ] [ 3. ODNの構成要素としてのCAN ]

日本がおそらく世界に一歩先駆ける形で、実現に向けて大きく動き始めたOCNではあるが、その実現・普及にあたっては、多くの課題が存在する。料金、実質速度、提供範囲などがその中心問題である。そのうちの加入者回線に近い部分については、ネットワークの構造的な問題が大きく、場合によってはOCN以外の解決策の方がむしろ合理的だという可能性も考えられなくはない。

ODNをできるだけ速やかに、たとえば今後10年以内くらいで、全国的に普及させるためには、NTTのみならず他社のそれも含めて、OCN型のネットワークが浸透することだけでは十分だとはいえない。

現にOCN自体、実際には通常の専用回線や電話回線など、既存のネットワークと相互接続されて初めて機能するものである。さらに、インターネットのこれまでの歴史がそうであったように、技術の進化は絶えず進行し、新しい形のネットワークが次々と登場しては相互に接続されていくというのが、ODNの本来の発展の姿だろう。

技術革新を中心とした競争による価格低下はもちろん歓迎すべきことだが、同時に、インターネットのもつ分散協調ネットワークとしての本質と、地域的に即座に収益のあがる市場が成立しにくい地方などの存在を考えると、事業者同士の協調はもちろんのこと、利用者との協調、さらに地域での自治体などとの協調を積極的に進め、社会政策として、ODNの構築・運用の推進に取り組むこともまた、社会的にきわめて重要と考えられる。

この点では、できるだけ短時間に完全なる市場経済と民間の競争が成立することを展望しつつ、立上りの初期の時機に限って有効な開発経済的な手法を導入することは、結果として全体にとって大きな意味をもつだろう。OCNにはそのための「呼び水」としての効果が期待され、情報革命の先導隊として重要な使命をもつものであろう。OCNの成功と発展には大いに期待するものであるが、そのためにも、NTTは様々な課題に正面から取り組むことが求められている。


地域ネットワークへの取組みこそ重要

とくにOCNだけでは足りない部分、とくに地域ネットワークについては、別の形のネットワークが登場すると考えられる。われわれはそれをCAN(コミュニティ・エリア・ネットワーク)と名付け、その可能性、必要性について考察する必要があると考えるものである。

日本では、インターネット型のネットワークについては、産業界および政府・行政レベルでは、その必要性について、すでのほぼ合意ができたと考えてよいだろう。後はその実施を着々と進めればよい。OCNはそのための有力な起爆・促進剤となると期待される。

しかし、企業や行政分野はそれでよいとしても、一戸一戸の家庭での利用、地域単位での利用・普及については、OCNだけでカバーするのは困難だろう。地方都市、農村、山間地帯など、国土の大半の部分をカバーするためには、OCNに限らず、無線も含む様々な形態のネットワークが登場する必要があるだろう。

そこで、全国的に地域コミュニティを単位とするネットワークとしてCANが広がり、そのCANが相互に連結され、OCNと相乗する形で広がり、ODNが発展していくという仮説が考えられる。


未完の「ラスト1マイル」問題

NTTが1990年に提唱した「VI&P」に始まり、92年からゴア上院議員/副大統領が提唱した「情報スーパーハイウェー」など、これまでの未来ネットワークは、光ファイバーを家庭にまで敷設することによって、高速広帯域通信のネットワークを完成させるというイメージが強かった。

これらの、いわば電話会社中心に推進されるとされてきた「ファイバー・ツー・ザ・ホーム(FTTH)」構想では、いわゆる「ラスト1マイル」の実現形が未完の問いとして残されてきた。つまり各家庭にまで光ファイバー回線を敷設するための、最後の加入者回線部分のコストが、需要との見合いで、充分低減できる見通しが立たない状況である。新しい情報基盤の構築コストは、国・税金でまかなうべきなのか、民間事業者の投資で進めるべきなのか、あるいは何か別の形の解決が可能なのかということが、基本的な課題として残されている。

この点、94年に電気通信審議会が出した「21世紀知的社会」答申では、2010年までに全国すべての地域をカバーする光ファイバー回線ネットワークを完成させるという目標を設定し、2000年までに大都市部を、2005年までに中小都市部を、残りを2010年までという3段階目標まで制定した。しかし、そこでも情報基盤の構築は民間投資によるものとし、それも、あくまで集線点までの、いわゆる「ファイバー・ツー・ザ・カーブ」であり、家庭に伸びる加入者回線については、具体的な方法は触れられていない。NTTを含めて、家庭へのファイバー敷設については、いまだに技術的にも経済的にも、未知数の要素が高い。OCNは果たしてこの問題への解決となり得るのだろうか。


OCNとCAN

OCNはこの「ラスト1マイル」問題の解決に第一歩を踏み出すものと期待されたが、残念ながらまだ道は遠いといわざるをえない。とくに、1.5M以上の高速で、問題が残っている。OCNの1.5Mは、加入者線が月額30〜40万円、6Mだと月額80〜90万円と試算されている。現在日本で、通常の形でインターネットに1.5Mで接続すると、専用回線が月額約30万円、プロバイダーの接続料金は月額100〜180万円程かかる。これが合計40万円になるのだから、実質3分の1程度以下となり、これも現行水準に比べれば大幅な価格低下と言える。

ところが、米国では、1.5M回線でのインターネット接続は、地域・条件によって相当異なるが、回線料金が月額400ドル程度、プロバイダー料金は1000ドル前後というのが平均的な価格であり、合計でも1500ドル=15万円ほどと、まだ米国の方相当安い。しかも、専用線は、まさに専用で利用できるもので、POPまでの速度保証がなされるが、OCNでは、専用線ではなく、POP以前のLS(ローカル・スイッチ)から先は、他者の回線と共用で回線を使うものであるから、最大値が1.5Mないし6Mということであって、実は専用線とは品質の異なる、いわば一段品質の下がった商品である。当然価格は割安でなければならない。

なぜ日米で価格のこれほどの差が生じるのか。これは、なにも通信回線に限る話ではなく、航空運賃やタクシー代に始まって、土地や住宅まで、様々な価格に言えるといえばそれまでだが、それにしても、通信の価格差は経済一般の差より目立つ。

一般に米国では、1.5M程度の専用線には、光ファイバーではなく、通常の銅線によるケーブルが利用され、この部分でのコスト差が大きいという。実は、日本の銅線ケーブルは、1.5Mなどの速度での大容量の伝送には向いていない。米国のケーブルの規格は、被覆部分の余裕が大きく、それだけ信号の干渉が少ないのに対して、日本のケーブルは、狭いところに多数の回線を押し込めるために被覆部分が少なく、それだけ干渉度が高くなりやすい、従って高速の信号伝送には不適な規格であるという。よって、1.5M程度の伝送にも、銅線ではなく光ファイバーが必要となり、その部分のトータルコストがまだ銅線に比べて高い。狭い国に多くの電線を敷設するために工夫した結果が、思わぬところで性能が犠牲になったといえよう。「ゼロ戦とグラマン」の違いが思い出される。こうした、ケーブルの品質そのものの差が、通信回線コストに響き、OCNでも解決できない問題のようだ。

この他、ケーブルの埋設方法など工事にかかるコスト、メンテナンスの人件費コストなども無視できない。また、交換機などの設備も、日本のメーカーのコストは、海外の同程度の機能をもつものよりかなり割高だという指摘がなされている。

しかも、相対的にはコストが安い米国といえども、「ラスト1マイル」問題、すなわち全ての家庭に高速広帯域の加入者回線を敷設するための最適ネットワーク構造が解決されているわけではない。上り下りとも対称で数メガ以上の速度を、地域コミュニティの過半数の世帯が現在の電話並みの低料金で利用できる構造について、技術的にはCATV回線を利用した光・同軸ハイブリッド、光ファイバー、ディジタル無線などからいずれを採用すればよいのか、その初期費用だれがどう負担し、どのようなビジネスモデルを用いればもっとも経済合理的に構築できるのかという命題は、依然として未解決のままである。


CATVによる可能性

OCNと並んで、インターネット型の回線を低価格で提供するものとしては、CATVによるインターネット回線接続サービスが、97年に開始されることが予定され、期待を集めている。東急ケーブルテレビジョン(http://www.catv.co.jp)では、97年4月から同軸回線を利用してインターネット接続サービスを提供すると発表し、現在、実験などの準備を進めている。その発表によれば、月額利用料金は1800円と思い切った価格を打ち出した。これは、「一般家庭のユーザーが払えるのは月額1万円が限度で、そのうち多チャンネルTVに最大8000円程度かかるから、残りは2000円以下にする必要がある」という認識に基づいて設定した「戦略料金」であるという。これでインターネットが高速で自由に使えるようになれば、OCNよりさらに低価格のサービスが登場することになり、一般ユーザーにとってその福音は大きい。

一方、武蔵野三鷹ケーブルテレビは、96年10月からインターネット接続サービスを開始すると発表している。こちらは上下とも10Mという速度のモデムを使うが、一ユーザーあたり、専用線型で256k、LAN型ダイヤルアップで192kの速度を確保する予定だという。ただし、料金は、専用線型が月額29万円、LAN型は月額ではなく、20時間で1万2900円+18円/分という従量課金というから、東急ケーブルほど安くはならない。

問題は実効速度である。東急ケーブルでは、方向によって提供速度が異なり、下りが30M、上りは2M程度だという。ただし、この速度を一人の利用者がそっくりそのまま使える訳ではない。同一回線を地区単位で共用するから、同時に最大何人が使うかで、一人あたりの速度は、当然「割り算」という結果になる。

現在は、同一回線を500名(世帯)程度の利用者で共用するという構造が想定されているようだ。同時利用者が少なければ、かなり高速の回線が利用できるが、同一地域で同時に利用が集中した場合には、どこまでの速度が保証されるかはまだ明らかではない。

また、位置的には末端の利用者であっても、インターネット接続である限りは、自分でサーバーを設置して、WWWによるホームページを開設する希望=需要があるだろう。しかし、サーバーは局側に設置されたものを借りて利用することが基本とされているようだ。末端利用者が自分でサーバーを設置するのは、技術的にはパソコンを使って簡単にできるが、人気が出れば外部からアクセスが集中してトラフィックが急増し、回線がパンクするおそれもある。

現在のインターネットでも、前述の通り、プロバイダーから先の部分は「共用」で、混雑すれば遅くなるという点では、全体の実効速度にはなんら保証はない。それでも、個人や中小企業などでは、現状の料金水準では高速の専用回線はとても契約できず、結果として低速回線を使わざるをえず、急増するトラフィックに対応できない状態でも我慢を強いられている利用者は多く、料金への不満も強い。OCNやCATVによるインターネット接続には、こうした利用者層を中心として、インターネットの低料金化への期待が大きいだけに、爆発的に増加する需要に耐えられず、結果的に利用者の期待を裏切る結果となることへのおそれもある。

現在のCATVは、95年3月末現在の加入世帯数が1025万、普及率が29%(NHK受信世帯比)だが、都市型CATVに限れば、加入数220万、普及率では2.3%に過ぎない。インターネット型のサービスは都市型CATVの延長上にこれから始まろうとしているのであり、都市型CATVの提供範囲の中からさらに限定した範囲しかカバーされない。たとえ急速に普及したとしても、世帯比率で10%程度に達成するのに、10年はゆうにかかるだろう。その意味では、CATVに期待できる度合はどうしても限られる。


CAN─地域単位のネットワーク形成の可能性

OCNもケーブル回線も、少なくとも、個人が自由にインターネット型のネットワークを利用できる環境として考えた場合には、まだまだ課題が多く、ODNの形成にとっても「切り札」にはならないといえよう。そうだとすると、全国の家庭にODN型のネットワークが普及し、安い料金で自由にネットワークを使いこなす、本当の意味での「情報革命」が実現された社会というのは、簡単には到来しないのだろうか。現状では、2005年はおろか、2010年でも到底実現されない可能性が高い。

しかも、郵政省が構想するように、NTTがもしも長距離と東西2地域とに3分割されたとすると、地域の競争は利益の上がるところに集中することは明らかで、当面はせいぜい携帯電話などが主で、地域単位で、インターネットに最適な情報基盤の発展が競争で展開されるという確たる保証はない。「ユニバーサル・サービス」についても、電話などの現在のサービスのランニング・コストに対する再配分なら、基金などの方策は有効かもしれないが、まったく新しい情報基盤の構築費用については、そもそも都市部でさえ見通しが立っていないのだから、基金で対応するということは非現実的と言わざるを得ない。

それでは、いったいどうすれば、個人で当面1.5M、いずれ45Mといった高速のネットワークが、全国どこでも自由に使えるようになるのか。そういう方向でODNを構築するためには、なにか特別の技術革新を待たなければ無理なのか。

LAN同士の相互接続がインターネットの基本であるとするならば、その基本に立ち戻って考えてみることが必要、有効ではないだろうか。そのために、地域単位でのネットワークの構築、すなわちCAN(コミュニティ・エリア・ネットワーク)が考えられる。隣り合うCAN同士を相互接続し、その輪を拡げていくことで、広帯域のネットワークでも、地域を基礎に構築することが可能になるという考えである。単純にいえば、家庭内のどの部屋からでもネットワークが自由に使える家庭内LANとしての「情報コンセント」と、隣近所でLAN同士を相互接続して成り立つ「情報ループ」、その情報ループ同士をさらに接続するCANという、いわば三層構造で地域での広帯域ネットワークの構築・普及を考えようというものだ。

これらの概念は、いわゆるボトムアップ式の、利用者側の現場からの発想に基づくものであって、必ずしも技術的な見通しが十全にあるものではない。むしろ、エンドユーザーとして「こういうものが欲しい」ということを明確化して表明することで、技術の側の取組みや、ネットワーク提供事業者の側からの回答を引き出したいという意味もある。


「ファースト1マイル」への転換

従来の広帯域ネットワークの構想は、まさに「ラスト1マイル」として、電話会社など事業者型、ネットワーク提供者側からの発想で考えられてきた。そこでは、利用者はまさしく「カウチポテト」を典型とする「お客様」として、情報やサービスを受け取る客体として規定されてきた。

これに対して、インターネットの最近の急成長の中から読み取れるのは、パソコンを駆使する個人ユーザーが、自分から積極的に必要な情報を取りに行く、「ネットサーフィン」する主体として登場したことである。さらに、自らホームページをもって積極的に情報発信する主体として、まさに「情報革命」推進の主体である「ネティズン」としてユーザーが登場していることに注目しなければならない。利用者はネットワークの末端に存在する「ラスト」ではなく、むしろ自らのネットワークを保有・運用し、そのネットワークの本質を規定し、情報とサービスを提供する主体として、「ファースト1マイル」へと発想・位置付けを転換する必要があるだろう。

CANとは、こうした主体の転換を反映するモデルでもあり、後述するように、「情報コンセント」や「情報ループ」など、ユーザーからのボトムアップ・モデルでのネットワークの構成を追求しようというものである。


多数の主体の相互の協調と競争によって構築を

ODNに代表されるこれからのコンピューター・ネットワークは、大きくいえば地域・全国・国際の境界による壁を意識しないグローバルなものになる。それは、単一の事業者が独占して構築するのではなく、多数の事業者が互いに競争・協力しつつ、それぞれのネットワークを相互接続して形作られると考えられる。

ただし、同じ競争といっても、実際には、ただ電話会社やケーブルテレビ会社といった通信事業者同士が競争するというよりも、たとえばマイクロソフトやネットスケープ、IBMやサン・マイクロ、アメリカオンラインやコンピュサーブといった、コンピューターのソフトとハードのメーカー会社、オンラインサービス会社、さらにはビザやアメックスといった金融・決済機能を提供する会社などが、入り乱れて市場の主導権を争う、新しいタイプの競争となる可能性が高い。そこでは、物理的な伝送速度とその価格を単純に競争するのではなく、技術的に広汎な利用者の支持が得られるような共通のプラットフォームの形成と発展をめぐる競争が主戦場となるだろう。

しかし、他方では、単なる市場競争の原理とは異なる、地域単位での、まさに「共有=パブリック」なネットワークの構築・運用が必要ではないだろうかと思われる。

日本の社会構造を考えると、大都市部なら市場競争によって比較的早期に新規情報基盤の構築が可能だとしても、多くの地方の中小都市では相当長期の時間をかけないと投資が回収される見通しは立たず、まして山村部などの過疎地帯では、なんらかの公的な形態で社会的な資本投下が行なわれない限り、競争原理だけでは、おそらくどのようにしても新しい情報化の進展は望めないのではないかと思われる。

それだからこそ、地域単位で成立する、新しいネットワーク構造の模索が、全国的に構築・展開される必要があると考えられる。


CANとOCNは補完関係に

CANはOCNなどと対立する概念ではなく、むしろOCNが幹線機能を果たし、CAN同士を相互に連結・接続するというような、相互補完関係が成り立つものと想定される。ODNを、本当に全国広範な地域のすべてに、限られた時間のなかで早期に構築しようとするのであれば、ただ市場経済と競争の枠組みのなかで、NTTなど既存の第1種通信事業者が需要に見合う形で設備投資を行なって進めていくのでは、とても間に合わないのではないかと懸念される。

今後の情報社会の発展を考えると、生活の現場、経済活動の基本単位として「地域」がますます重要となり、その地域同士が、いわばグローバルに連結・発展していくことが重要と考えられる。その意味でも、CANは戦略的にきわめて重要と考えられる。

地域におけるCANの具体的な構築では、とくに物理的な回線、いわゆる「加入者線」のレベルで、従来の通信事業者やケーブルテレビ会社に限定されず、電力・ガス会社や水道・下水道事業者、建設会社や道路工事・電気工事会社、あるいは静止衛星や低軌道衛星を含めた各種の無線通信事業者までが広く参加して行なうようになるべきだろう。そうでなければ、今後5年から10年という短期間で新しい広帯域の加入者回線を構築・普及させることは難しいと考えられるし、反対にネットワーク間の相互接続原理さえ確立していけば、単一事業者や少数事業者による閉鎖的な管理をしなくても、ODNは充分機能し、発展していくと考えられるからだ。

日本の情報革命の未来は、どこまで“オープン”なネットワークが、しかも早期に築けるかにかかっている。地域においては、とくにこの点は重要な課題と考えられる。事業者自身の未来もそうだ。目先の利害にとらわれてネットワークや利用者やコンテントの“囲い込み”に走るところは、早く脱落するだろう。何よりも利用者がそれを望まない。電話型の閉ざされたサービスではなく、新しいオープンな土台での競争、これがODN時代の情報通信の基本となる。通信事業のあり方をめぐる問題も、旧来の電話型事業ではなく、このODN型のネットワークの発展方法を中心に据えた議論が必要なのだ。そして、そのためにも、CAN構築の全国運動を展開する必要があるだろう。


CANの基本構築原理

イントラネットが「企業内ネットワーク」の延長に発展するものとすれば、コミュニティ単位で、イントラネットに対応するネットワーク構造が必要と考えられる。それがCANである。

CANは、OCNなどの幹線ネットワークによって相互接続されていくだろう。その意味で、全国的なODNの展開とは、CANとOCNそれぞれの発展と結合を通して実体化されていくものと考えられる。

CAN構築に際しての基本原理を定義すると、次のようなものと考えられる。

・だれもが構築可能 Build
・だれもが所有可能 Own
・だれもが運用可能 Operate
・だれもが参加可能 Participate
・だれもが利用可能 Use

すなわち、物理的な回線の構築や所有は、利用者自身、あるいは利用者同士が共同する共同組合的な組織でも可能であり、また、それらの委託を受けた第三者による構築・所有も可能と考えられる。具体的には、道路工事、ガス工事などの作業にあたる建設会社や、通常の電気工事、電力回線などの工事にあたる電気工事会社なども、CANの構築の当事者としては充分なる有資格者といえる。

「ラスト1マイル」ではなく、「ファースト1キロ」、あるいは「ファースト10m」を、利用者自身が構築・所有・運用し、それを、共同・協調型で相互接続していくというイメージである。


情報ループと情報コンセント

CANの成立には、物理的なネットワーク形態が重要な要素となる。これまでの電話の場合には、個々の加入者から最寄りの電話局まで各一本の線が引かる「スター型」の構造だった。インターネットも、プロバイダーのPOPと個々のLANとの間には、専用線が「スター型」に引かれている。他方、ケーブル・テレビでは、基幹回線が単位サービス区域をまわる「ループ型」で、そこから加入者ごとに「分岐」をだす構造になっている。

インターネットの利用料金の大幅な引き下げを可能とするために必要な工夫の一つは、こうした「ループ型」の連結構造を採用することだと考えられる。つまり、個々のLANとPOPを直結するのではなく、いくつものLANをつないだ幹線ループをPOPにつなげるのだ。こうすればループの設備が共有される。

ループと自宅や職場のLANを結べば、「情報コンセント」も可能となる。「情報コンセント」は、電気のコンセントが一部屋にいくつもあって電化製品を自由につなげるのと同様に、各部屋に複数用意され、情報製品を自由につなげるような仕組みであり、現状ではイーサネットがもっとも実用的である。

こうした構造が可能となるためには、オフィスでいえば同一ビル内に共存する異なる企業のLANをすべて一つのループで「相乗り」でつなぐことが考えられる。住宅の場合でも、アパートやマンションなどの集合住宅でインターネットの回線を共有することなら比較的容易に実現可能だろう。個別の住宅だとそうはいかないが、それこそ「向こう三軒両隣り」で、隣接し合う住宅同士をLANで結ぶ仕組みが考えられる。現在の「通信事業」には、こうした形態は想定されていないが、インターネット型のネットワークの普及のためには、新しい発想がぜひとも必要となるだろう。

すでにマンションなどでは、64kディジタル回線を所有者が設置し、居住者にはイーサネット経由でインターネット接続を「無償で」(賃貸の家賃に込みで)提供するところが、日本でも登場し始めている。

これを、さらに自治体などが介在することで、共同の仕組みとして拡大・定着させることができれば、CANの実現可能性は大きく高まるといえるだろう。


図2 情報コンセント

●「情報コンセント」は、家中の情報関連機器、家電製品などが自由に接続できるLANによって実現される。ユーザー自らネットワークを持つという意味では、「FIBER TO THE HOME」より「THE NET FROM HOME」というべきだろう。

ODN 図3 情報ループとCAN

●隣接する各家庭のLANが「情報ループ」によって相互接続され、情報ループ同士の相互接続・集合体がCANとなる。これらの総体がODNとなる。


CANを支える新しい社会システムが必要

CANとOCNを中軸とするODNは、どうすれば速やかに実現でき、かつ円滑に運用できるだろうか。技術的な可能性を追求するのと並行して、社会制度についても、新しい発想による取組み、変革が必要だろう。

それにはまず、電話を中心に「管理された競争」の仕組みとして存在している、現行の電気通信事業法の体系と、その施行規則や各種の内規・行政指導の慣行などを早急に見直し、できる限り多種多様な事業体の参入を可能にする、開かれた制度的仕組みを作っていくことが不可避の課題と考えられる。その際には、新たに構築される局所的なコミュニティ・ネットワーク相互間、および既存の情報通信ネットワークとの間の相互接続や相互利用が保証されなければならないだろう。「第ゼロ種通信事業」などと呼ばれる通信回線それ自体を建設・提供する事業活動の自由も、保障される必要があるだろう。

しかし、それだけでは、とりわけ民間の経済力が充分でなく、自力展開の速度が期待できない地方でのコミュニティ・ネットワークの急速な展開にとっての十分な条件にはならないだろう。そこでは、民間の事業者だけでなく、地方自治体や市民の参加が可能な仕組みを工夫してみる必要も大きいと考えられる。

CANのような新しい形態の情報ネットワークは、単に営利企業が市場で競争することだけで形成されるとは考え難い。数十年単位で考えるのならともかく、それでは「情報革命」実現へのモメンタムは大きく後退してしまう。せいぜい今後10年程度で、ODNの広範な普及を展望することが求められている。初期の電話網は国家独占で数十年かかって構築されてきたが、初期のCANは、おそらく営利企業と自治体にコミュニティの代表=市民が加わり、その共働・協調と努力の上に築かれるべきだろう。


大分におけるCANへの試み─「地域情報化委員会」構想

CANへの取組みは、実質的にはすでに始まっている。

大分県では、1985年以来、地域に根差した市民主導型のコンピューター・ネットワークCOARAが存在し、活発に活動を続けてきた。COARAは、パソコン通信をベースに、「電子会議」による双方向のコミュニケーションを活動の中心とし、市民同士の活発な情報発信を特徴としている。

1993年、大分県を核に、日本電気、富士通、NTT、NTTデータ通信の出資協力を得て、地域に未来型ネットワーク社会を構築するための研究所として、ハイパーネットワーク社会研究所が設立された。1994年には、日本の地域パソコン通信としてはいち早くインターネット接続を実現させ、以来利用者の急増をみているとともに、NTTが発表したマルチメディア共同利用実験への参加が認められ、現在、「ハイパーネットワーク地域実験」として、インターネット型の次世代ネットワークの地域実証実験の準備を進めている。この実験こそ、CAN構想の原型づくりといえるもので、GLOCOMも、ハイパーネットワーク社会研究所と協力する形でこの実験の準備にかかわっている。

この地域実験では、大分・別府地域にインターネット型のネットワーク、それもビデオメールやビデオ電子会議など、パソコン通信の機能を画像にまで拡大して利用できる新しい機能を盛り込んだものを開発・運用することを計画している。大分県が実験の共同主体となり、郵政省や通産省などの国の支援・参加も受けながら、あくまでも市民主導、利用者主導型でのネットワークの形成を進めていこうという考えである。

この実験では、物理的なネットワークの実験と並行して、コミュニティ・ネットワークの構築と運営を促進・支援する「地域情報化委員会」と仮称される組織を作るための試みが続けられている。

そこには、自治体と共に、地域の主要な通信業者や、コミュニティ・ネットワークの構築に強い関心をもつ市民の代表が参加している。また、ネットワークを利用したさまざまなアプリケーションを提供したり、自らの業務自体をネットワーク化することに関心をもつユーザーの協議会も、地域情報化委員会と並んで組織されようとしている。地域情報化委員会のもつべき機能としては、以下の事項が考えられている。

・中立性の担保(特定の勢力の支配を排除)
・共通の土俵を設定
・行政、民間企業、市民が対等に協力する場の形成

これらの機能に加えて、実際には、そうした機構を実現するための枠組み作りや、実際にネットワークシステムが運用に提供された後に、中立性が維持発展されているかなどについての監視機能まで必要とすると考えられる。

それと同時に、実際のCANの運用を開始するためには、以下の機能も果たされなければならないだろうと考えられる。そのためには、「情報化委員会」とは別個に、地域主体の連合体としての協議会などの組織の形成が必要かもしれない。

・システムの継続的な発展のための設計・構築管理
・システムの運用・管理
・自律的な経済基盤・原則の確立・維持

このような委員会や協議会が、営利事業としての参入には二の足を踏みかねない民間の情報通信事業者を当該地域に引き寄せ、その活動を促進するための制度的基盤(プラットフォーム)として機能することが、期待されていると考えられる。

こうした制度の形成は、情報のネットワークが大きな機能を果たすようになる新しい社会へと移行するためには不可欠のものとなるだろう。こうしたいわば社会的なプラットフォームが、地域でCANの基盤として確立されてはじめて、だれもが安心してネットワークをビジネスに、市民生活に、充分に活用することができるようになるのだろう。

大分に限らず、日本の各地で、それぞれの特色を生かした形でのCANへの取組みが生まれ、それらが互いに交流、連動しあうことによって、CANが大きく成長をし、実質的に日本における新しい情報基盤として育つことが構想できる。

「情報革命」は、そうやって現場から生まれ育つことを通して実現されるものだろう。その流れに、われわれ自身も直接加わり、現場での実践と、その実践を支える認識・研究との相互交流を創り出していくことが求められている。




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