始まった行政のインターネット利用


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会津 泉

(国際大学GLOCOM・ハイパーネットワーク社会研究所)

インターネット協会会報原稿





日本の官庁もインターネットを利用開始

米国政府がホワイトハウスを先頭に、インターネットを利用して情報発信や市民との双方向での対話を活発に進めているのはよく知られている通りだが、こうした動きに刺激されて、日本でも最近、首相官邸や郵政省など、インターネットの利用を始める省庁が登場してきた。いずれもWWWを用いたサーバーを設置し、海外に向けた情報発信を重視しているのが特徴だ。WWWサーバーは通産省でも試験運用が開始され、95年度からは本格的な運用が始まる予定であり、また外務省や科学技術庁は外郭団体がすでに情報提供に着手している。経済企画庁も首相官邸のサーバーに一部情報提供をしている。地方自治体では、神戸市が神戸大学のサーバーから観光情報などの発信を始めている。関西学研都市での次世代通信網の実験でも、まだ外部への接続はされていないものの、WWWサーバーとMOSAICを使った博物館データベースが提供されている。こうして、最近急速に高まった情報インフラ関連の施策やマルチメディアブームが、お役所にも大きな影響を与え、とくにインターネットはいますぐ実現でき、目に見える成果を現しやすい手段として採用され始めている。


総理大臣官邸のホームページのインパクト

そのなかでも、永田町にある内閣総理大臣官邸のWWWサーバーは、国のトップのオフィスがインターネット利用に先鞭をつけたもので、内外のインターネット・コミュニティに対して、また一般の省庁に対して、大きなインパクトを与えるものだった。総理大臣官邸にサーバーが置かれたきっかけは、大きく二つある。

一つは、米国のクリントン大統領とゴア副大 統領が93年6月から市民からの電子メールを受け付け始めるなど、ホワイトハウスがインターネットを積極的に利用し始めたことだ。とくに、94年2月にスウェーデンのビルト首相とクリントン大統領が電子メールの交換を行なったことが大きかった。当時「日本のトップも電子メールを利用して国際舞台で積極的な発言をすべきだ」と、「行政改革推進本部」などでの議論のなかで指摘されたという。そして94年4月には、日本から民間の代表団がホワイトハウスを訪問して情報政策について意見交換を行なったのがきっかけで、双方の若手メンバーからアイディアが出され、両国首脳同士の電子メール交換を実現させようというプロジェクトが水面下で進められていった。このアイディアは早速当時の羽田首相のブレーンらに伝えられ、実務レベルで準備が進められていった。メール交換のために官邸にサーバーを設置し、インターネット接続の技術的な手筈を整え、7月上旬には「kantei」というアドレスの取得も完了していた。ところが、承知のように7月に政権交代が起き、村山内閣が成立したために、この日米首脳同士のメール交換プロジェクトは一時見送り状態になってしまった。

もう一つは、政治レベルの話とは別に、総理官邸の事務方のスタッフには、業務の効率化を図るという観点から、パソコンの活用やパソコン通信の導入などのアイディアが存在していたのだった。日本の総理官邸は各省庁からの出向者による寄り合い所帯で独自の権限は少ないが、スタッフの人数は限られきわめて多忙である。その中で、少しでも事務を効率化し、機動力をもちたいという考え方があった。

最初はパソコン通信が導入されたが、米国やスウェーデンなどの先例が聞こえてくるにつれて、どうせならインターネットにつなぎたいということになっていった。突然の政権交代で、首脳同士のメール交換プロジェクトは一時停止とならざるをえなかったが、せっかく予算をやりくりして設置したマシンをそのまま遊ばせるのはもったいない。村山内閣はパフォーマンスを好まず、しかも前政権時代に企画されていたものをそのまま行なうこは難しい。そこで、メール交換より実質的で、官邸の限られたスタッフでも実現可能なこととして浮上していったのが、行政情報のデータベース発信だった。これなら地道ではあるが、政府内外に情報公開に積極的な姿勢を示すという点で意味があると考えられた。多少なりとも今後につながる実質的なものが残せ、他の省庁への先例としての意味もあると考えられたのだ。それがインターネットでのWWWによる情報発信という形になったのは、サーバー設置を担当したI社のアドバイスがあったものとみられる。この間、行政レベルでの情報化推進の動きもあって、霞が関に全体として「追い風」が吹いていたのも事実だった。

7月26日には「行政情報システム各省庁連絡会議」が、行政全体の情報化の推進のための基本的考え方と方向を明らかにした。このときの発表文書をよく見ると「分散処理、マルチメディアなどの新技術等の普及、活用及びオープンシステム化の推進」、「各省庁内LANの整備及びこれらを接続する霞が関WANの整備」など、官庁用語にまざってインターネット型の分散ネットワークへの取組みが多少とも入っている。8月2日には、内閣に村山首相を本部長とする「高度情報通信社会推進本部」が設置された。「高度情報通信社会の構築に向けた施策を総合的に推進するとともに、情報通信の高度化に関する国際的な取り組みに積極的に協力する」というもので、9月からはその活動の一環として、企業トップや学者ら、民間人12人からなる有識者の会議も始まった(下表)。これらの動きは、官邸のサーバー導入と直接は関係ないものの、全体の環境づくりという点では大きな要因となったいえよう。


[表 高度情報通信社会推進本部・有識者会議委員]

・磯崎 洋三(TBS社長)・猪瀬 博(学術情報センター所長)
・大山永昭(東京工業大教授)・川勝堅二(三和銀行相談役)
・北岡隆(三菱電機社長)・公文俊平(国際大教授)
・柴門ふみ(漫画家)・佐々波楊子(慶応大教授)
・椎名武雄(日本IBM会長)・三木利夫(新日鉄副社長)
・山口開生(NTT会長)・鷲尾悦也(連合事務局長)

8月になって、サーバーによる情報発信の準備が具体的に進められた。ところで、現在の日本の内閣と各省庁の制度では、首相官邸が直接もつ権限はごくわずかなもので、したがって、官邸そのものが起案・作成する文書=情報の量は限られている。物足りないといえばその通りだが、しかし、発信する側の作業量からいえば好都合でもあった。弱小の組織だからこそ、インターネットへの接続と発信が簡単にできたという逆説が成り立つようだ。もし強大な組織であれば、インターネット利用の是非、セキュリティなどの問題を議論するだけで、1、2年はすぐにたってしまっていたかもしれない。

こうして8月23日、実験的に総理大臣官邸からWWWサーバーの公開が開始された。とくに記者発表したわけでもないのに、WWWサーバーのアドレス「www.kantei.nagatacho.or.jp 」は、日本中、いや世界中のインターネット・コミュニティにあっという間に知れわたっていった。発信する情報としてまず取り上げられたのは、総理の国会での所信表明演説の英文版だった。最初は村山総理の他に細川、羽田の両前総理の演説も提供されていた。すぐに日本語版も提供されるようになり、続いて「高度情報通信社会推進本部」関連の動向を伝える情報や、経済企画庁の「年次経済報告書」のポイントの説明など、少しずつ情報内容が増えていった。

9月にはインターネットの双方向性を生かして、高度情報通信社会推進本部に対して、情報社会に向けての政策に関連して国民からの意見を電子メールで集めるという「電子目安箱」が実施された。正確な数は発表されていないが、1日数通、合計で100通を越える意見が寄せられ、海外から外国人による英文でのメールも届いた。集ったメールは高度情報通信社会推進本部の委員会での論議の参考材料として活用されているという。アクセス件数は、一日あたり平均して2000件ほど、一週間に1万件前後だという。残念ながら数だけみれば、たとえばホワイトハウスが1週間で1万通近いメールを受け取っているのと比べるといかにも少ないが、それは日本でのインターネットの普及度合に比例し、またこの試みがWWWのサーバー上でのみ発表され、インターネットでIP接続できる限られた人々にしか知られなかったことも大きな要因と考えられる。NIFTYやPC−VANなど、パソコン通信経由でも正式に広報されていれば、ずいぶん結果も異なるものになったものと思われる。パソコン通信に比べると、インターネットはまだまだ一般市民レベルでの個人利用が少ないということもいえる。

こうして始められた官邸の情報発信は、当初は予算上の制約から、実験期間として9月末までの予定だったが、予想以上にアクセスが多く、メールも集まるなどの効果が認められ、とりあえず11月末までに延長され、さらに95年3月末まで継続されることになった。なにしろ正式な年度予算として認められて始められたものではなく、事務費をあちこち節約してなんとか捻出されているというのが実態のようだった。実績が認められれば、来年度以降は正規の予算がつくものと期待される。1995年の正月には、年頭の村山総理のビジョン発表に伴って、音声データも提供された。1メガを越えるファイルが、計6つ提供されている。細い回線ではダウンロードだけで数十分以上かかる。残念ながら、テキストファイルで読む方がよほど速い。今後は、できれば専任のスタッフを用意してメールに返事が出せる体制にもっていきたいという考えがあるようだ。

ただし、政府による情報の発信という点では、官邸そのものが中心になるより、各省庁がそれぞれ所管する範囲での情報提供に取り組む方が望ましいという考えもあるようだ。インターネットは、基本的には分散ネットワークだからでもある。また、本当は、国会の衆参両院の議会事務局や大蔵省印刷局などが積極的に取り組むことが期待されるのだが、いまのところは、そのような動きはまだ表面には現れてはいない。いずれにしても、かなり唐突ではあったが、総理大臣官邸からWWWサーバーでの情報発信が実現したことのパイオニアとしての意義はとても大きい。インターネットが日本で正統な情報ネットワークとして認知される上で、その効果は案外大きなものがあるだろう。 


郵政省でもWWWで発信、ただし英文のみ

首相官邸に刺激されて、他の省庁でもインターネット利用が始まっている。郵政省では、9月からインターネットでWWWによる情報提供を開始した。その背景としては、クリントン政権の成立当初はNII(National Information Infrastructure)を、94年3月からはGII(Global Informatin Infrastruture)を提唱し始めた米国政府に対して、標準化など電気通信政策面での協調を申入れてきた郵政省が、インターネットを利用して積極的に情報提供に取り組んでいる米国政府との協力プロジェクトを実現する一環として開始されたものである。

具体的には8月上旬、日米の官民合同の「電気通信ラウンドテーブル」会議の準備などのために訪米した郵政省国際政策課の担当者が、ホワイトハウスのIITF(Information Infrastructure Task Force)の実務担当者と会った際に、郵政省から両国政府のデータベース同士の交換を行なおうと提案し、ホワイトハウス側がインターネットを利用し、WWWで情報提供してはどうかと勧めたことに発したという。この時点では、郵政省側はWWWについては詳しく知らなかったようだが、ホワイトハウスではすでにWWWサーバー立ち上げの準備が進められていたのだった。帰国後、米側が9月にもWWWサーバーを開始するとの感触を得た郵政省では、自分たちのサーバーもほぼ同時期には立ち上げたいと考え、急ピッチで準備作業にかかることにした。米国では9月15日がNIIの「行動計画」の発表一周年で、ホワイトハウスがこの日に合わせて新しくWWWサーバーの立ち上げをするというのは充分考えられるシナリオだった。実際には、諸々の理由から調整に手間どり、ホワイトハウスのサーバーが立ち上がったのは10月下旬までズレこみ、結果的には日本の郵政省の方が先行した。

郵政省は9月19日からITU(国際電気通信連合)の全権会議を京都で開催する主催国でもあった。4年に1度の大規模な国際会議で、日本で開催されるのは初めてということもあり、郵政省のメンツをかけたイベントでもあった。そこでこの機会に合わせて、インターネットで情報提供を始めるというのが省内説得の「錦の御旗」となった。ただし、郵政省ではこれに先だち94年4月から、大規模な省内LANが導入されていた。当初の段階では計画されていなかったインターネット接続も、ぎりぎりになって実現されていた。したがって、米側からの提案にも、具体的にサーバーまで用意されていたわけではないが、対応できないことはなかったのだ。ただし、回線速度は64kと遅く、省内でもインターネットにIP接続できる端末環境が広く整備されてはいないため、インターネットでネットサーフィンできるのは、いまのところ一部の限られた部署、人間しかいない。そこでとりあえず国際広報だけに絞って、外部の応援を得てサーバーの準備が急ピッチで進められた。

9月19日の開始当初は、ITU総会にちなんだデモンストレーションとして、総会での各種のスピーチや主なニュースが発信された。その後、5月に出された電気通信審議会の答申の全文や郵政白書などの資料をはじめ、郵政省の海外広報関連の資料全般が提供されるようになった。アクセス数は、たとえば12月の1週間で1万2千件を越え、1日平均で1700件ほどになる。英文だけという点では、そう少なくはない。1回のアクセスは平均7分弱だという。海外から研究目的での問い合わせや資料請求などが時々来るという。また、最近は海外の政府関係者、とくにホワイトハウスやEU政府の情報インフラ政策担当者などと、電子メールを頻繁に交換するようになったという。11月末にワシントンで「日米電気通信ラウンドテーブル」が開かれたが、その準備にもメールが活躍し、さらに2月に開催予定のブラッセルでのGIIをテーマにした先進7カ国、いわゆるG7の担当閣僚会議の準備にも、電子メールは欠かせないツールとなっているという。

ただし、サーバーで提供される情報はいまのところすべて英文で、日本国民向けに日本語で情報提供されているわけではない。国内の広報部門がインターネットについてはほとんど認識していないようなのだ。郵政省は早くからNIFTY−Serveで郵政フォーラムを開設してきた実績があっただけに、インターネットでの日本語情報の提供に消極的なのは理解に苦しむ。もっとも、NIFTYでも、自由な対話ができるフォーラムは閉鎖され、一方的な広報だけが残ったという。このあたりのいわゆるお役所的な体質は困ったものである。担当者はかなり努力しているが、その割には、ネットワーク利用の効果が省内でも充分に認知されているとはいえないようだ。今後は情報内容の充実、とくに日本語での情報発信や、アジアなど途上国にも歓迎されるような役に立つ情報を発信していくことが大事だろう。

経済企画庁も8月26日に「電子メディアによる情報発信等の充実について」という文書を発表し、「近年の情報化・マルチメディア化の進展に対応し、電子メディアを活用して、内外への情報発信等の一層の向上を図る」として、平成6年版の経済白書をCD-ROMで販売し、パソコン通信・FAXによる国民への公表文書の提供とならんで、「情報ハイウェーとして注目されているインターネットの利用を開始予定」と発表した。95年度には、「インターネットを通じた海外との情報の受発信、内外のエコノミストとの情報交流」や「インタ−ネット活用研究会(仮称)」を組織し、

(1)  インターネットを利用した海外情報の収集(統計・ニュース・論文)
(2) インターネットによる情報発信のありかた
(3) インターネットの研究交流への活用方策
   研究会の運営に際しては、今後の業務のシステム化のモデル・ケースとして、
   庁内の電子会議システム(グループウェア)を活用する。

といった事項の検討を進めるという。さらに、通産省は11月9日に「通商産業行政の情報化の推進に関するアクション・プログラム 中間とりまとめ」を発表し、その施策のトップにインターネットによる広報資料の国内・国外への公開を今年度中に準備し、95年度から本格的に開始することが盛り込まれている。さらに白書や統計もインターネットで公開する予定だが、使いやすいようにと、各種の白書はSGML化し、統計データは細分化された形式で公開するという。通産省でも、情報化によって業務の効率化・高度化を進めることを掲げ、一人一台のパソコンの導入と、省内LANの整備、そしてインターネットへの接続を計画している。

また関連のいわゆる外郭団体にも、インターネットなどでの情報提供の推進を支援していく考えである。外務省でも、従来は専用端末による「JIN(Japan Information Network)」を在外公館などに設置して日本からの海外広報を展開してきたが、最近では各国からインターネットでの情報提供を求める声が強まり、外郭団体の「海外広報協会」ではすでに94年12月から実験的にWWWサーバーでの情報提供を開始した。引続き、本格的なインターネット利用についての研究会が1月から開催される予定となっている。この他、科学技術庁でも、外郭団体の日本科学技術情報センター(JICST)が、WWWによる情報提供をすでに開始している。さらに、平成7年度予算で、いわゆる「霞が関WAN」の調査費が認められ、省庁間を結ぶ広域ネットワーク構想がようやく実現にむけて歩み始めることになった。これは総務庁が担当する「行政の情報化」の推進策で、紙の書類がすべてだったお役所の事務も、ようやく電子化される時代が来るのかもしれない。


問題点も多い

こうして、日本の政府省庁でもインターネットの利用が一見活発に展開されていくように見えるが、そう道は簡単ではなく、問題も多いようだ。なんといっても提供される情報の質・量が、まだまだ貧弱である。ネットワークだからこそというような速報性もあまり感じられず、紙では簡単に入手しにくいような膨大な量の文書が入っているわけでもない。お役所の発表資料中心で、どちらかというと自分たちに都合に良い、いわば当たり障りのない宣伝文書が目立ち、パフォーマンスが先行している嫌いがあることは否定できない。省内での理解も、それほど高いとはいえない。実際問題としては、どの省庁でもインターネットを自ら使える環境が広く行き渡っているわけではないので、自分の省の情報でも見れない人が大半というのが実態である。

専任のスタッフがいるところもほとんどない。メールでの問い合わせに対しても、郵政省などでは返事を出すようにしているというが、首相官邸ではまったく手がまわっていない。国会が開会期間中は、だれもメールを見ることさえできないという。メールやWWWは便利ではあるが、それだけでは本格的なインターネットの利用という点ではまだまだ入口といってよい。

GOPHERやWAIS、メーリングリストや自動リプライなど、インターネットの豊富な機能を使いこなしているところはまったくない。また、各省庁の動きには縄張意識も強く存在し、「マルチメディア」や「高度情報化」の錦の御旗の下で予算を確保し、リーダーシップをとろうとする下心もなくはない。それだけ、額面通りには受け取れない点も多々ある。他の省庁が実施するから自分のところも負けじとインターネットを導入するといった局面も考えられる。

さらに、各部署がバラバラに情報発信を直接行なえるインターネットのような分散ネットワークが、従来の官僚制度となじみがよいかというと疑問である。実際、外務省などは、これまでは日本の海外広報は自分のところが窓口となって一元的に行なう方針だっただけに、当惑もあるようだ。同じことはそれぞれの省庁自体についても言える。外部への広報は「広報課」が担当するというのが、これまでの省庁の基本的な仕組みだったが、インターネットのサーバーでは、必ずしもその必要はない。個別の業務についていちばんよく知っている、各現場組織が自分で情報発信することが可能になるし、むしろその方がより正確でタイムリーな発信になる確率が高い。

そもそも「官僚制」と「中央集権制」とは切っても切れない関係にあったと考えられるだけに、インターネット型の分散ネットワークの普及は、官僚制の成立原理そのものへの挑戦となるといっても過言ではないし、それだけに無意識にでも抵抗があることは予想に難くない。しかし、インターネットの利用の促進という点では、現状でも一歩前進であることは明らかで、利用が進むにしたがって、当初の目論見を越えて、新たな展開が生まれることも期待できなくはない。

米国では「National Performance Review」といって、ゴア副大統領をリーダーに、連邦政府の行政改革を徹底的に進める動きがあり、「Electronic Government」といって、行政組織にインターネットやLANを導入することで、業務効率の大幅な向上と、組織の壁を越えるヨコのコミュニケーションを促進することによる意識改革が真剣に追求されている。スウェーデンなどでも、政府が同様にしてネットワークの導入を図り、市民に対するサービスの向上をめざしている。いずれ日本でも、単なる一方的な情報提供ではなく、本格的な組織の改革にネットワークの利用を結びつけていくことが、政府自身の取組みとして不可避のものとなるに違いない。


【参考】

(1) 情報化推進の基本的考え方

「行政の情報化」を,国民サービスの向上と行政の質の向上を図るための,事務・事業及び組織を通ずる行政のシステムを改革する重要な手段として位置付ける。 


(2)行政情報化の基本的方向


  • 国民等に対する行政サービスの高度化

    • 情報提供サービス等の高度化・各省庁の報道発表資料などを時間的・空間的制約を超えて国民等に提供する情報システムの整備・公開可能な行政情報のオンライン,CD−ROM等多様な形態による提供とそのクリアリング(所在・利用案内)システム等の整備・情報・通信技術を活用した提供窓口の一元化,取扱時間の延長等行政サービスの向上を図るための必要な制度面の見直し

    • 行政手続等の迅速化・高度化・国民等との間の行政手続等について,事案審査等行政機関内部の事務処理を合理化・迅速化する情報システムの整備に合わせ,申請・届出・報告・相談等の電子化・オンライン化の推進と諸規程類の見直し・各種申請・届出等窓口の近隣化・一元化及びワンストップサービス等の事務手続の簡素化の在り方について調査研究


  • 行政事務の高度化・効率化

    • 意思伝達,事務処理の高度化

    • 行政情報の総合利用


  • 情報・通信システム基盤の整備

    • 情報・通信システムと執務環境の高度化・職員一人ひとりがいつでもパソコン,ワークステーション等の利用が可能となる環境の整備・施設のインテリジェント化など執務環境の整備・分散処理,マルチメディアなどの新技術等の普及,活用及びオープンシステム化の推進・情報の総合利用を行うためのデータコード,データ項目等基本的事項の標準化

    • 通信ネットワークの高度化・各省庁内LANの整備及びこれらを接続する霞が関WANの整備・行政機関のネットワークと各種周辺ネットワークとの間の適切な情報交換手段の確保


  • その他

    • 情報化推進のための組織的・人的基盤の整備・充実等

      地方自治体はこれから 国レベルでのインターネットの利用は、まがりなりにも始まったが、これに対して地方自治体の取組みは、残念ながらこれからだ。神戸市が10月からWWWで情報発信を始めたと大きく報道されたが、実際には神戸大学の協力によるもので、市独自に取り組んでいるとまでは言い難い。同様の例は北海道大学、弘前大学、奈良先端技術大学などのサイトでもみられ、それぞれ地域の概要、観光情報などをその地域の特色を伝えるカラー写真を交えて提供している。

      一方、大分県では、パソコン通信の地域ネットワークとして活発に活動しているコアラが94年7月からインターネットにIP接続し、WWWによる情報発信を始めている。コアラのホームページは、役所や大学などとは一味違って、よりパーソナルで親しみやすい「ダイアリー(日記)」の形式をとっている。別府の観光案内やイベントの報告にまざって、大分で始めて誕生した総理大臣の実家が、警備しているおまわりさんやパトカーの写真とともに紹介されていて、なかなかユーモアのセンスにあふれた画面となっている。

      コアラでは会員に自由に投稿することを呼びかけていて、パソコン通信のもっている双方向コミュニケーションのよさをインターネットでも実現することをめざしている。そこで、「一人一ホームページ」というスローガンの下、会員が自由に自分のホームページをつくって、楽しく情報発信を行なっている。女性会員が自分の編んだセーターの作品を発表したり、幼い頃の写真をアップするなど、なかなかプレゼンテーションも上手である。コアラには、大分県当局は支援はしているものの、直接の運営にはタッチしていない。行政側の取組みはこれからといった方が良いが、その方が案外市民の活動が活発になるというのも一面の真実なのかもしれない。

      東京都もインターネットでの情報発信を検討しているという。東京都では、新庁舎の開設を契機に、「とみんず」といって、区役所などに設置したビデオテックス専用端末による都民への情報提供システムを開始したが、あまりにも不振でまったく利用されていないため、見直し作業を進めてきた。この見直しの検討過程で、インターネットを利用する構想が浮上しつつあるという。開始時のシステム開発予算が総額200億円、そのうえ年間の維持運用費が4億8千万円もかかるネットワークが、いっこうに利用されていないというのだから、困ったものである。インターネットなら、せいぜい数千万円あれば、世界中に相当量の情報発信が可能となる。

      この他、東京を中心に活動している市民の自発的なグループであるLINC が、長野オリンピックの情報提供を行なうとして、組織委員会から正式の許可を得て、すでに情報提供を開始している。メーカー系でも、この秋には行政を対象にしインターネット・セミナーを開催して、多数の参加者を集めたところがある。ホワイトハウスや首相官邸ののホームページに関心が集まっていた。

      考えてみれば、官公庁や学校・研究所・図書館などの公共施設では、市民に対する情報提供は無償あるいはせいぜい低額の実費をとる位が一般的だ。インターネットで無償での情報提供が増えても、なんらおかしくはない。今後、利用者側の視点に近いところで、積極的な行政の情報化が進められるためにも、インターネットの利用は非常に重要となるだろう。さらに多数の自治体が、住民向けに、あるいは全国、全世界に対して、インターネットによる情報提供と、市民との双方向の交流を実現してもらいたい。そのために、いまのインターネット・コミュニティのメンバーも、ボランティアで、あるいは業務ベースで、行政のインターネット利用に積極的に協力していうことが求められているだろう。


◆官庁インターネット・サーバー/電子メール宛先一覧

 メールアドレスWWW URL
首相 官邸 sanjikan@kantei.go.jpwww.kantei.go.jp
郵 政 省 feedback@mpt.go.jpwww.mpt.go.jp
経済企画庁 tsu01118@koryu.statci.go.jp 
科学技術庁  www-admin.jicst.go.jp




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