ヨーロッパ・コミュニティ・ネットワーク会議ECN'98に参加して
(ハイパーネットワーク・ワークショップにて発表)
7月上旬、スペインのバルセロナで、ヨーロッパのコミュニティ・ネットワークについての国際会議が開催され、アジアからは一人招待参加したので、その様子を報告したい。 昨年のミラノに続く第二回ECN (European Community Network)会議には、オランダ、イギリス、フランス、フィンランド、イタリア、カナダ、オーストラリア、アメリカ、アルゼンチン、そして地元スペインから、約100名の参加者が集まり、非常に活発な議論が行われました。この会議では、日本でほとんど知られていなかったヨーロッパでのコミュニティ・ネットワークの状況が具体的に伝わり、日本の地域ネットと共通する課題も非常に多く、大変良い勉強になった。 ミラノの市民ネット 2泊3日の会議は、びっしり濃い内容だったが、そのごく一部を報告しよう。まず「デジタルシティのデザインモデル」というセッションだ。フィオレラ・ディ・シンディオさん(大学の先生、女性)の発表だ。彼女は社会学者で、ミラノの地域ネットづくりに積極的にかかわっている。ヨーロッパでは、全般に大学の職員たちが積極的に地域の人々とコラボレーションしてネットワークづくりを進めているのが特徴のようだ。 市民とミラノ市との対話を、インターネットのニュースグループで実現してきた。ミラノ市は自前のホームページはまだもっていないが、コミュニティネット(RCM)との協力で、実質は実現してきた。市民主導型で、市の職員も、市民として参加している。 たとえば、「忘れ物」コーナーがある 。町で傘を忘れても、この掲示板に書けば探し出せるという仕組みだ。こういうコーナーは、役所や企業のトップダウンではない、市民の発想を活かしたからこそできたのだ。市民が良いサービスを欲しいと思ったから、素直にできたといえる。 イギリスのコミュニティネットとIBM 次に、IBM−UKがイギリスのコミュニティ・オンラインというコミュニティネットをサポートするNGOに積極的に関与している事例を、IBMのサマンサ・ヘラウェルさんが発表した。ここでも発表者は女性で、全体の発表でも3割くらいが女性だった。 彼女はIBMの社員だが、週の半分はコミュニティ・オンラインで働いている。 なぜ、IBMがコミュニティ・オンラインに参加したのか? いまは、非常に寂しい仕事で、関与している企業はIBMだけだ。もっと協力してくれる企業を必要としている。 たしかにこの会議の会場にも、企業の人間はほとんどいない。 IBMは、3年前に「落雷」を受け、これが未来なのだと理解したから関わるようになったのだ。3年間にわたって続けた議論と研究・調査、そしてデビッド・ウィルコックスなど、イギリスのコミュニティ・ネットをリードしてきた主要な人物たちの影響だ。私自身は、企業アフェア専門に働き、公共政策の影響などを研究し、ビジネス部門ではなかった。 1995年頃から、社会的に、テクノロジーとそれによって実現されようとしている情報社会に対して否定的な見方が広がっていったのが契機だった。その典型的なのは、以下のような見方だ。 ・ 技術を身につけられない自分は世の中から取り残されるのではないか ・ 技術を支配する政府が強大になり過ぎるではないか ・ プライバシーが侵害される ・ コンピューターに脅威を感じる人が大勢出るだろう つまり、市民が技術の流れとその社会的影響を理解できず、企業としてIBMが社会から理解されなくなる可能性があった。そこで、IBMとして、教育、政府、プライバシー、社会参加などのトピックが焦点となった。社会への受入れ・参加(social inclusion)が多くの人の関心を引きつけた。そこで、IBMがコミュニティ開発プログラムに参加することになったのだ。 social exclusionではなく、social inclusion が重要と考えている。いまはすっかり流行している言葉だが。これはブライトン大学 の報告書 Community-based IT Initiativeなど、既存のITコミュニティプロジェクトから学んだ。 現在、自分はほとんど、自宅で働いている。すると、IBMに対して、機器提供・寄付の要請がメールなどで非常に多くくる。IBM UK を代表しているが、IBM全体としては、教育プログラムの推進(米国)に力を入れているが、全世界のIBMが必ずしも、同じ方針ではない。英国では、コミュニティネットに重点を置いている social inclusionが重要だからだ。現在、他の企業がなかなか一緒に参加しようとしないことが問題だ。われわれが言っていることが、なかなか他の人には理解されない。コンセプト全体がわかってもらえない。 ただし、英国でのこの三年の経験で、政府を変えなければならないとわかった。政府の焦点が、social exclusion にあるが、social cohesion、あるいはsocial inclusion こそが重要だ。最近、ある銀行がきて、われわれが政府に働き掛けるのに協力してくれないか? と依頼された。社会inclusion に積極参加しないと、政府から批判されるからだ、という。 (http://www.communities.org.uk) バルセロナの市民参加型ネット 次のバルセロナ市役所に勤めるファランセスク・オサン氏の発表も印象的だった。 ここ数年、市役所でホームページを始め、行政サービスもワールドワイドウェブ上で実現してきた。様々な文化情報の提供から建設許可手続きの申請法まで、オンラインに載せている。しかし、とくに意義深いのは、市民参加型のネットをスペインで初めて実現したことだ。 ここ数年、市役所でウェブをつくってきたが、常に市民に消費者として参加してもらい、自分たちでウェブの内容をつくることを可能にし、責任ももってもらった。単に情報を取り出せるものではなく、インターネットを活用することで、市民が自らの意見を表現し、全市民が意思決定に参加できる対話型のネットである。 この市民参加型のネットは、今年6月1日から動き始めた。具体的には市民参加のボランタリーアクションページを開始し、まず次の2つのトピックについて市民に投げかけた。 1 地下鉄やバスなど公共交通機関の夜間のサービスを減らす方針だが、どう思うか。 2 ネットを活用して市民が行政に積極参加できるために、どうしたらよいか。 このフォーラムは、標準的なウェブ会議室を使っている。討論テーマ、フォーラム、チャットなどがひとつのメニューになっているそして、討論のサマリーをつくって提供してある。焦点を決め、ホームページでそれに関連する資料、情報も引き出せるようになっている。図書館、アーカイブもウェブから調べられるようにした。 可能な限りの情報を提供しようとしている。チャットもある モデレートされている。 政治家(議員)との対話もできる。アンケートを用意し、市民が回答することで、市議会の議員が、市民の意見をすぐに知ることができる。新聞などに掲載されている関連テーマについての主な報道記事も取り出せる。市役所側に、職員による委員会が用意され、市民の議論に沿って行動できるようにしてある。 小さなネットをボトムアップでつなぐ 現在バルセロナには、5つのコミュニティ・ネットワークがある。オリンピックのメインスタジアムで有名なモンジュイックをはじめ、近隣コミュニティ単位で、ボトムアップ型でつくられるようにコーディネートしてきた。そうした個々のコミュニティネットをヨコにつなぐ、ネットワークのネットワークが「バルセロナ・シティネット」である。つまり、住民が生活している地区単位でまずコミュニティネットがあり、それを互いにつなぐことで、市全体のネットを広げようとしているのだ。 市のコミュニティネットとは、あくまでボトムアップ型でできる小さなネットの集合体と考えている。情報やサービスを市が一方的に提供するだけでなく、市民が参加してコミュニティをつくりあげるための土台を提供しようとしているのだ。市議会の議事録なども情報として提供はするが、そこに市民が意見やアイデアを寄せ、議論できる。市会議員、各政党が市民からの意見を参考にすることで、より適切な決定ができるようになるのだ。 まだ実験の初期段階だが、市民と市とが共同管理(co-management)することで、この経験をすべての社会組織と共有していきたいと考えている。 ---------- 市全体を単一の大きなネットで「上から」カバーするのではなく、まず日常生活の単位である地区ごとに小さなネットを立ち上げ、それらを横に順番につないでいくという方法は、従来の日本やアメリカではあまり見られなかった独自の手法といえ、今後のコミュニティ・ネットワークの展開にとても良い参考になると思われる。 また、ヨーロッパはもとより、カナダ、アメリカ、オーストラリアなど、この会議に集まった世界のコミュニティネットの関係者にとって、コミュニティネットの基本とは、市民自身のコミュニケーション、対話にあるというのが明確な共通理解だった。GIIなどに刺激されて始まった、国や市など政府・自治体による一方通行的な情報提供中心の「上から」のアプローチでは成功しない、というのが大勢だ。参加者のなかに電話会社の人がほとんどいないのも珍しい?ことだった。 その晩、そのバルセロナのコミュニティネットの一つ、「ラバルネット」を実際に訪ねた。旧市街の中心部、貧しい住民が多い地区で、治安もそうは良くないところだ。石造りの古い建物に囲まれた薄暗く狭い路地の奥に、青少年の集会所がある。狭い部屋にパソコンが数台置かれ、高校生ぐらいの若者たちが自分たちでホームページをつくり、クラブを動かしている。その彼らが数人来て具体的な説明をしてくれた。ミロを生んだ町だけあって、ホームページに載せられた小学生たちの描いた絵が非常に鮮烈だった 今回の会議の主催者で、バルセロナにおけるインターネットの先駆者でもあるアルチュール・セラ教授(カタロニア工科大学・文化人類学)は、バルセロナにこうした動きが起きた背景を、「カタロニア地方にはアナーキストによる社会運動としてのコミュニティ活動の伝統があり、それにグループウェアを研究するCSCW(Computer supported Cooperative Work:コンピュータ支援協調作業)分野のコンピュータ科学の研究者の活動が結びついた」と説明してくれた。 フランコ政権に抵抗して銃をとったあの「カタロニア讃歌」のアナーキストたちの歴史がいまも生きているとは思わなかったが、実際のラバルネットにはたしかにその香りがしていた。 彼自身は、バルセロナで開かれたある国際学会での、増田米二氏の発表に刺激を受けたことがきっかけの一つとなって、コンピューター・ネットワークの世界に足を踏み入れたという。おそらく10年以上も前のことだろう。増田氏は、市民がボランタリーにつくる「情報市民公社」の到来を予言し、大分のコアラの草創期にも、大きな影響を与えた人物だ。意外なところで、増田さんの名前を聞いて、驚いたのものだ。 (http://www.bcnet.upc.es) ここ数年、アメリカ、カナダ、ヨーロッパに、コミュニティ・ネットワークの連合組織が続々と生まれ、コミュニティ・ネットワークのグローバル会議の開催が模索されています。わがCANも、その流れに合流することが求められていると痛感した。 さすがラテンの国だけあって、会議が終わるのが8時頃、食事は10時頃から始まって12時頃までかかり、相当の体力が必要だった。地下室でのワインが美味しかったことを蛇足で加えておく。 |
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