*以下はIAJニュース(10月23日発行)掲載予定の原稿です。


インターネット・ガバナンス

IFWPのプロセスの報告と教訓

1998年10月


会津 泉  Email:izumi@anr.org

アジアネットワーク研究所代表
アジア太平洋インターネット協会 事務局長
GLOCOM/ハイパーネットワーク社会研究所





・問題の所在 インターネットはだれがどう管理するか

ここ数年、世界中のインターネット関係者が直面してきた最大の課題の一つが、「ガバナンス」あるいは「セルフ・レギュレーション」と称される、インターネットの管理運用体制をめぐる問題だ。いまやインターネットは、全世界で数億人というオーダーの人々が毎日の仕事や生活に欠かせない手段として利用するようになった。それだけ大きな影響力をもつネットワークを、だれがどのように管理するかという方法と仕組みの問題が、大きく問われるようになったのは必然の流れだ。
そのインターネットの管理運用の中核に存在するのが、IPアドレスとドメインネーム、ネットワーク・プロトコルの管理の問題だ。これらの技術体系を運用管理する総元締めが、米国のIANA(インターネット・アサインド・ナンバーズ・オーソリティー)という、南カリフォルニア大学付属の研究機関である。IANAは、実質はジョン・ポステルというインターネットの先駆者が一人で切り盛りしてきた組織だが、その活動資金のかなりの部分は、米国政府国防総省との「委託研究」に支えられてきた。一方ドメインネームは、とくに、gTLDである「.com」、「.org」、「.net」については、米国の民間企業であるネットワーク・ソリューション社(NSI)が、米国政府の全米科学財団(NSF)からの委託契約によって登録業務を行なってきた。
95年10月から、NSIがgTLDの申請に「手数料」を徴収し始めたことで、ドメインネーム登録業務が立派な営利事業となることが見え、「.com」を代表とする汎用ドメインネームは、NSIの独占体制を開放し、他社にも登録業務を見とめるべきだとの意見が出始めた。「.com」だけでは不足で、「.biz」など、新しいgTLDの追加が必要で、すべて市場の自由競争に委ねるべきだという主張が強まった。また、NSI社に対してはドメインネームと登録商標との摩擦をめぐる訴訟が頻発した。その背後に、米国政府がIANAやNSIと結んでいる委託契約は健全な市場競争を妨げるとの批判も強まった。
こうして、IPアドレスの割当体制なども含めて、インターネットの現在の運用管理体制全体に、法的正統性(レジティマシー)があるかどうかが問題とされ、関係者による激しい議論が続いてきた。


・gTLD体制の見直し gTLD MoU

1994年頃から、gTLDを中心としてドメインネームの新しい運用体制を模索する動きがインターネット・コミュニティのメンバーを中心に開始された。96年5月、IANAのジョン・ポステルが、RFCドラフトとして、gTLDを新たに150追加すると提案した。この提案は大きな議論を巻き起こし、インターネット協会(ISOC)が中心になって、国際電気通信連合(ITU)、世界知的所有権機構(WIPO)など国際機関のメンバーにも呼びかけ、96年10月に国際臨時検討委員会(IAHC)が設立され、汎用ドメインネーム(gTLD)についての新しい運用体制を検討し、97年2月に最終案がまとめられた。インターネット・コミュニティの内外で賛否が交錯し、さらに数度の修正を重ねた結果、97年5月、この案に賛同・署名する団体・組織が参加し、ジュネーブで新しい協定書=gTLD MoUの調印式が行われた。
これにより、IANA、IAB(インターネット・アーキテクチャー・ボード)、CORE、ITU、WIPO、INTA(国際商標協会)らの代表によるポリシー監視委員会(POC)が設置され、登録業務に参加したい企業を世界中から公募し、98年1月に88社・組織が選定された。これらの企業の連合協議会(CORE)が全体の調整を行なうものとした。COREは、共有データベースの開発を進め、98年4月から運用が開始される運びとなっていた。


・米国政府の介入 グリーンペーパーからホワイトペーパーへ

ところが、gTLD MoUの内容とそれに至るプロセスに批判的な人々は、新体制には法的根拠が欠如していると主張し、米国政府に対してこれを認めるべきではないとのロビー活動を始めた。ITUなどジュネーブに本部を置く国際機関が参加していたことから、欧州主導だとの批判も出た。これらを受けて、米国政府は現行体制における契約の当事者として、gTLD新体制への切替えを承認することを留保し、新体制は実際には稼動できない状態となった。
こうして膠着状態が続くなか、米国政府はホワイトハウスのアイラ・マガジナー大統領上級政策顧問を責任者に、インターネット政策を担当するプロジェクトチームを発足させた。1997年7月、まずインターネット上の電子商取引を非課税にすることを呼びかけ、同時にドメインネームなどの技術的な運用管理体制について検討開始すると発表し、ヒヤリングを含めて新政策の立案・実施活動に着手した。その結果、1998年1月末、商務省の電気通信庁(NTIA)がドメインネームの新管理体制を中心とする政策提案(「グリーンペーパー」)を発表し、関係者からの意見を広く求めた。このグリーンペーパーでは、インターネットの発展は米国国民の税金が使われたことが強調され、IANAに代わる国際的な新法人を、米国法下で、民間主体で設立することが提案され、米国政府は現行の契約を終結させ、インターネットの運用管理からいずれ手を引くとした。
 この提案には世界中から600通以上のコメントが寄せられたが、大半は米国の意向が強く出過ぎ、細目まで関与し過ぎると批判的だった。EU政府なども強い懸念を表明した。98年2月、フィリピンのマニラで開催されたAPPRICOT会議の際、APIA(アジア太平洋インターネット協会)主催の討論会が行われ、マガジナーも参加したが、そこでも米国中心主義に対するアジア側からの懸念が表明された。マガジナーは、世界中からの建設的な提案は大歓迎で、それらを受けて最終案を4月にはまとめると表明した。
98年6月、予定より遅れて、新提案、ホワイトペーパーが発表された。各国からの批判を受け、グリーンペーパーの内容は大幅に修正され、非営利、ボトムアップ、民間主導といった主要原理は維持しつつも、新法人の機能、組織形態などの具体的な内容はすべて民間に委ねるというもので、今度は大筋では各国関係者から歓迎された。


・民間の自主努力 IFWPの活動

ホワイトペーパーはバトンを民間に委ね、米国政府ではなく民間側が9月末までに新組織についての合意を形成することを要求した。数年間にわたる激しい論争をわずか4ヵ月で収束し、全世界の関係者が納得できる非営利組織とその運営体制を民間主導で作り出すというのは、至難の業にみえた。これは歴史的にみてもあまり前例のない「実験」といえる。
6月中旬、米国のISPによる業界団体CIXなどが提唱し、欧州の業界団体なども参加してIFWP(インターナショナル・フォーラム・オン・ホワイトペーパー)という臨時の組織が作られ、新体制実現のための活動が開始された。IFWPの活動目的は、これまで不毛な対立関係にあった様々な利害関係者が、あらためて議論を通して現実的な解決策=「コンセンサス」を形成することの促進と、そのために共通のテーブルづくりに置かれた。
会議開催の裏方として実務作業を推進する幹事会(SC)が設けられ、その参加資格は法人格をもつ非営利団体で、週2回開催される電話会議に自費で参加できるものとされた。アジアのインターネット関連団体は任意団体が多く、SCにはアジア太平洋インターネット協会(APIA)のみが参加した。筆者はAPIA事務局長という立場で、7月中旬から、電話会議および平行するメーリングリストでの討議に参加し、IFWPの運営に深くかかわることになった。
IFWPは、当初は各国当事者から猜疑の目で見られたが、あらゆる参加者が公平に、オープンに参加できるという原則を強調し、その実現に努力した結果、次第に前向きに受け止められるようになり、参加団体も大幅に増えた(表1)。この背景には、9月末までに民間による具体案が一本化されない場合には、やむをえず米国政府が自らの手によって新体制をつくるとマガジナーが明言していたことも大きく作用している。


・ワシントンでの第一回ワークショップ

7月1-2日、米国ワシントン郊外のレストンで、IFWPの第1回ワークショップが開催され、約200名が参加してあるべき新組織の機能、制度を中心に侃侃諤諤の議論が戦わされた。このワークショップでは、特定の立場の人々に特別の位置を与えず、終始参加者のだれもが平等に扱われた。ゲスト参加したマガジナーと、これまでのプロセスにはまったく無関係で、国際紛争調停を専攻するボストン大学のタマル・フランケル教授がチェアを勤めて短い「基調講演」を行ったほかは、ジョン・ポステルからのメッセージはフランケル教授が「代読」し、すぐにテーマ別の分科会に入った。 参加者がその場で司会と記録係を選び、トピックの選定から議論の進め方まですべてオープンに、全員の合意を得ながら進め、後に全体会でその結果を報告・確認するという方法がとられた。米国ではよく行われる方法だが、英語が自由に操れない者にとっては相当負荷が高いことも事実だった。
議論の対象は、あくまで新組織の組織形態と、それを実現するための方法に絞り、組織の具体的な機能や運用方針(ポリシー)については触れないとされた。つまり、新組織の「器」の作り方に集中し、「中身」は、新組織の構成メンバー役員が決めるべきだというアプローチで、まず「公平・公正」な入れ物についての合意づくりを優先し、対立する利害の調整は、できた入れ物のなかで行うという2段階戦略だった。 この結果、これまで激しく対立してきた人々がまた不毛な議論を続けるのではないかという大方の懸念に反して、予想以上に生産的な討議が展開され、主な合意点および論点が明確になるという成果をあげ、参加者の満足度は高かった。この結果、ヨーロッパ、アジアと一連のワークショップを続けることが確認された。


・ジュネーブのワークショップと欧州政府の対応

IFWPの活動を米国主導と受け取った欧州政府(EU)は、7月初めにブラッセルで独自の会合を開催した。ただし、参加者はIFWPの幹事会メンバーであるヨーロッパの業界団体が多く含まれていた。その結果、独自の代表を選任し、ヨーロッパ側の要求・主張が整理され、発表された。
ISOCも、当初はIFWPに懐疑的で、いったんはジュネーブでのINET98で「インターネット・サミット」という特別セッションを単独主催すると発表したが、IFWPの第1回のワークショップに参加した結果、INET98の終了直後にIFWPの第2回ワークショップに合流・共催すると方針を変更した。
 7月24-25日、ジュネーブで開かれた第2回ワークショップは、第1回同様に、新組織のあり方を中心に、項目別の議論が繰り広げられた。開かれた会員組織か限られた組織による構成にするのか、役員会の権限と責任などが主な対立点となったが、多くの点では合意が形成されていった。これらの議論での「合意」事項はすべてその場で記録・確認され、さらにインターネット上で公開されていった。また、ハーバード大学法学部のバークマンセンターの研究者がボランティアで各ワークショップの合意点を収集し、IANAおよびNSIがそれぞれ発表した新組織の規約案を論点毎に比較対照し、IFWPの合意内容との整理を行ってやはりウェブ上に発表して議論の推進の媒介を行う作業にあたった。


・8月、シンガポールで会議開催 アジアの声をどう出すかが課題

IFWPのプロセスにアジアからの声を反映させようと考えたAPIAは、アジアの他のインターネット関係団体にも広くよびかけ、8月11日から13日の3日間、シンガポールでIFWPの第3回ワークショップを開催した。アジア側の主催団体は表2の通りである。
 準備期間が実質一ヵ月弱、主催側の人員・体制は十分とはいえず、しかも欧米をはじめ各国の利害関係者の対立には依然根強いものがあるため、準備の舞台裏は相当厳しいものがあった。モデレーターやパネル討論の発言者の人選で、厳密な中立性や全体のバランスをとることが強く要求され、調整は容易ではなかった。資金集めも難航した。しかし、蓋を開けたところ予想を大幅に上回り、アジア太平洋の18カ国・地域をはじめ、欧米はもちろん、アフリカ(ガーナ、南アフリカ)、中南米(メキシコ、アルゼンチン)など計32カ国150名が集まった。
このシンガポール会議では、欧米の発想に偏ることなく、真にグローバルな体制を創るために、アジア側からの意見を出すことが最大の目的であり、課題でもあった。米国側は「政府は手を引き、民間主導で進める」と言うが、アジアでは、是非はともかく、現実には政府が動かない限り民間が動けない構図の国が多い。また、英語に限らず多言語・多文化への対応を強調するのもアジアならではの意見だ。
欧米では、自由発言方式で活発な議論が起きるが、アジアの人々は、インターネットの関係者でも、国際会議で自ら積極的に発言する人は数少なく、多くの人は議長の指名や、あらかじめ定められた順番に沿って発言する傾向が強い。しかし、それでは錯綜する問題を解決するための深い議論はなかなかできない。会議の運営には様々な工夫が必要とされた。
事前にアジアの文化・プロトコルの説明ガイドを配布し、自由討論と指名型討論を組み合わせ、モデレーターがワイヤレスマイクを手にもって積極的に席を回って、アジア側の発言を促すことも行なった。マイクを向けられば、案外自分の意見を言う人は多いからだ。最前列に陣取る欧米人とアジア・途上国の人間との席を交代してもらうことまでした。最後には「オックスフォード・ディベート」も行った。こうした努力の甲斐もあって、「新組織から政府の人間を排除するのは、アジアでは非現実的だ」、「アフリカの後進国は先進国のインターネット利用に追いつくことさえ難しい、その現実をもっと理解すべきだ」といった声が相次いで出された。参加者の理解レベルが大きく異なるため、前2回の会議とは異なり、コンセンサスを確認する票決は一切行わなかった。一人一人の発言をより重視したかったからだ。欧米側の参加者からは、アジアの異なる文化・発想の存在がよく伝えられ、とても有意義だった評価が高かった。この結果、IFWPの議論を受けて進められたIANAによる新組織の規約案にも、役員会への地域代表の参加、政府による顧問会議などの設置などの条項が盛り込まれた。


・日本政府の腰の重さ

シンガポール会議に際しては、問題の重要性を理解してもらう意味もあって、アジア各国の政府に参加を呼びかけたのだが、問題の理解が不足していることと急な連絡のためもあって、なかなか参加が揃うのは難しかった。なかでも、わが日本は、とくに腰が重かった。私自身、7月末に実際に霞が関に郵政省、通産省の担当者を訪ねて出席・協力を依頼したのだが、「重要性は認識しているが、出張旅費がない」と言って、結局郵政省から現地の大使館に出向中のT氏が出席しただけだった。郵政省はこの問題について研究会を開催し、直前の7月に報告書をまとめ、英文版もホームページにも発表しているのに、議論に自ら加わろうとはしないし、協力・支援もしない。この姿勢には、強い疑問が残った。代わりに研究会のメンバーでもあった日本インターネット協会の高橋徹会長が報告書の説明を依頼されたのだが、残念なことに高橋会長は会議の直前に体調を崩し、参加不可能となった。通産省に至っては、最初から参加・協力の姿勢はまったくなかった。舞台裏で米国政府側と連絡は取り合っているが、民間によるオープンな議論に参加・協力しようとしない姿勢はきわめて問題だ。いくら「民間主導」でも、政府にも相応の役割はあるというのが、アジアの共通認識だったのだが。
その点、アジアの途上国政府からは、数こそ少なかったが、熱心な参加があった。地元シンガポールの政府関係者はもちろん、インドから二名、カンボジアからも一名が熱心に参加した。フィリピンからも関係者が派遣された。EU政府も代表を派遣して、ペーパーを配付し、情報収集を熱心に行なっていた。マレーシアは、政府系のプロバイダーであるMIMOSの若手が参加した。
オーストラリア政府はもっとも積極的で、担当者が2名参加し、議論の進行に積極的に参加・協力した。彼らはジュネーブで「民間主導で調整活動、標準化を推進することはきわめて重要だ。ただし、過去の経験から民間だけで推進することの困難さをよく承知しているので、自分たちも “産婆役”として積極的な協力をしたい」と発言し、シンガポールでもその通りの役を果そした。
米国政府は、マガジナー大統領顧問は私用で不参加だったが、ビデオテープによるメッセージを送って、米国政府の主張を強調しつつ、民間側の努力を評価・尊重するとの発言を行なった。


・日本は民間からの参加も少ない

日本は民間側も、終始積極的に関わってきた日本インターネット協会の高橋徹会長があいにく急遽欠席となり、NTTの担当者が体調不良で不参加になるなどの不運もあって、参加がきわめて少なかった。わずかにJPNICの丸山事務局長、グローコムのアダム・ピーク、私を入れても数名が動いていた位だった。IFWPは「民間主導」のはずだが、日本ではそういう認識は弱いのだろう。
欧米からはプロバイダーに止まらず、メーカーはもちろん、情報産業協会、電子商取引協会といった情報関連の業界団体からも広く参加があり、関心の広がりを示していたのに対して、日本の民間業界はまったく関心がないようで、メーカーからは少数が個人的な立場で参加していたくらいで、正式な参加はまったくなかった。各国から日本に対する期待はきわめて高いのに、日本は官民ともにアジアの中でのリーダーシップを積極的にはとろうとしない。インターネットのホスト数、ユーザー数では、アジアでは群を抜いて高い日本が、他人の褌に乗ったまま、自らの問題として積極的な分担を引き受けようとしない姿勢が感じられた。


・その後の展開 収束への混沌

シンガポールの会議は成功裏に終わった。続いて、8月20-21日にはアルゼンチンで中南米諸国によるIFWP会議が開催され、盛会だった。問題は、これら一連の議論の結果を、どこでどう収束し、実際の組織の立ち上げにつなげるかだった。その方法論はどこにも決められていないままだった。
IFWPの幹事会では、8月の中下旬に、議論の収束方法を巡り、延々と検討を続けた。紆余曲折の結果、いったんは米国ボストンで、ハーバード大学のバークマンセンターが主催し、新組織の統一規約案を仕上げる非公開の「交渉会議」を9月中旬に開き、その直後にIFWPが公開での「批准会議」を主催すると決定された。
しかし、事態は二転三転した。電話会議が一日おきに開かれたが、非公開の交渉はアンフェアだという批判や、新組織への移行に大きな影響力をもつIANAとNSIが交渉に参加すると確約しない限り意味がないとの主張も強く、CIXなどの主な構成団体のいくつかは、IFWPのプロセスは終わったとして、個別交渉に焦点を変えようとした。 IANAもNSIも明確に交渉に参加するとの態度を打ち出さずに徒に日にちが過ぎていった。9月初旬になって、非公開で進められていたIANAとNSIの直接交渉が予想以上に進展し、交渉会議は意味がないとして両者は参加しないとバークマンセンターから報告された。この結果、「批准会議」もキャンセルし、IANAとNSIによる最終案がまとまるのを待つことになった。しかし、それに不満な人々は、IFWPプロセスの継続を主張し、独自にボストンで草案作成会議を開催することになった。この時点で、IFWPは事実上分裂し、事態は混沌へと向かった。
幹事会での議論と平行して、メーリングリストに次々に報告が流され、様々な意見、思惑、うわさが飛び交っていく。新組織の規約についての主な対立点は、開かれた会員組織にするかどうか、組織のアカウンタビリティ、透明性をどう確保するかといった条項だった。一方、そうした規約よりも暫定役員にだれがどう選ばれるかの方が重要だとして、IANAとNSIにその候補者を推薦する動きも舞台裏で進行していった。アジアでも、当然それについての対応が図られている。
9月14日、ごく短い時間であったが、筆者はたまたま訪米した機会にホワイトハウスにマガジナー顧問を訪ねた。彼はIANAとNSIの交渉結果について楽観的で、その後物理的な会議による承認、あるいは、インターネット経由でのオンライン承認を行えば、月末の期限までに、少なくとも暫定で新体制はできあがるとの見通しを示した。
9月17日、IANAとNSIから、両者が合意に達した規約案がインターネット上で発表された。IANAの第4案でもある。ただし、新組織を「会員組織」にするかどうかという最大の問題点については、両者は合意に至らず、会員組織とする方向を盛り込みながら、最終的には暫定役員会が決めるといういわば「棚上げ」措置で、時間切れを控え、暫定色の強い内容だった。この後、IANAは9月27日に独自に「第5案」を発表し、一方NISは米国政府との契約の終結・移行交渉に終われる展開となった。この間、関係団体、各国政府などは、個別に米国政府あるいはIANAなどにそれぞれの意見を伝達していった。
結局、期限切れ直前の9月29日に、米国商務省はNSIとの契約を一週間延長するとともに、IANAおよび他の団体から新組織の規約提案をあらためて受け付け、これに対するコメントを公募し、それらを検討した上で、最終的な移行案への実現交渉を行うと発表した。これを受けてIANAは新組織ICANN(Internet Corporation for Assigned Numbers and Names)の発足へ向けて動き出し、すでに暫定役員の候補9名を発表している。
米国政府は、IANAが提案した案をベースに結論を出し、新組織を立ち上げる可能性が高い。その上で、関係者は今後さらに議論を続け、合意を積み重ね、現実的に機能する組織を形成していくことになる。まだまだゲームは続くのである。


・全体を通しての問題点と教訓

インターネットの管理運用について、グローバルに、オープンですべての勢力を満足させる仕組みを、短期間で、民間主導で、非営利で、しかも各国政府・国際機関を満足させるような機能・体制のものをつくりあげるというのは、実際に関わってみるとわかるが、とんでもなく困難で無謀な試みだといえる。必要となった時間と資金も、非力な組織には重い負担となった。
それでも、議論を重ねることを通して、大きな合意点(と対立点)が浮かびあがり、それに基づいた組織案が曲がりなりにもできたのは、多くの関係者の努力の賜物である。しかし、いまはまだ問題解決の端緒についたところに過ぎない。インターネットの「ガバナンス」というテーマでいえば、ドメインネームとIPアドレスというのは、重要ではあるが、いくつもある問題点のごく一部といえる。電子商取引の普及には、セキュリティ、認証制度などの標準化とその運用での協調が不可欠だ。暗号問題も根深い問題だ。コンテンツ規制をめぐっての国際協調体制も要求されている。市場原理に委ねて、民間側だけで解決できるとは限らない。
かといって、これら分野別の問題が発生する都度、今回のIFWPのような臨時組織を立ち上げることは、きわめて非生産的だ。IFWPには、意思決定のルールがまったく制定されていないため、実務を優先させる利点はあったが、最終段階での混沌を制御できないという欠点も大きかった。
ISOCが機能するのであればまだしも、残念ながらそれは非現実的だ。これまでのインターネットの発展を支えてきたコミュニティと、最近になって大きく拡大したインターネットの利用者、利害関係者、ビジネス関係者とでは、価値観、方法論がまったく異なる。政府の関心も強い。
 インターネットのガバナンス全体を担当する新しい国際組織を一気に設立することは、困難だし、有効でもないだろう。しかし、世界中に広がるインターネットの多様な関係者が日常的に意見を交換し、問題解決の土台となる相互理解を推進する土俵を共にしておくことは、重要だし、意義があるだろう。 そうした新しいフォーラムづくりの必要性をあえて提言したい。
その動きにどこまでアジアの声が反映できるか、その中で日本の官民の関係者の役割があらためて問われているのだが・・・。


<参考>

IFWP全体    http://www.ifwp.org
シンガポール会議  http://www.apia.org
IANA、NSIの規約案   http://www.iana.org および http://netsol.com
米国商務省NTIA   http://www.ntia.doc.gov
主な文書の日本語訳など
ホワイトペーパー:
GLOCOM   http://www.glocom.ac.jp/lib/misc/9807WPintro.html
JPNIC   http://www.nic.ad.jp/jpnic/domain/white-paper.html
郵政省報告書   http://www.mpt.go.jp/pressrelease/japanese/new/980707j601.html


表1 IFWP一般参加団体  *は実行委員会 (VOLUNTEER STEERING COMMITTEE) メンバー

Association for Interactive Media (AIM)*
Arizona Internet Access Association (AIAA)
Association of Internet Professionals (AIP)*
Association of Online Professionals (AOP)*
Asia & Pacific Internet Association (APIA)*
Camara Argentina de Bases de Datos y Servicios en Linea (CABASE)*
Canadian Association of Internet Providers (CAIP)*
Center for Democracy and Technology (CDT)
Commercial Internet eXchange Association (CIX)*
Computer Software and Services Association (CSSA)*
Confederation for British Industry (CBI)
DNRC (Domai Name Rights Coalition)*
Educom/Educause *
European Internet Service Providers Association (EuroISPA)*
Information Technology Association of America (ITAA)*
International Chamber of Commerce (ICC)
Internet Alliance (IA)
Internet Law & Policy Forum (ILPF)
Internet Service Providers Consortium (ISP/C)*
Internet Service Providers of the UK (ISPA-UK)
Internet Society (ISOC)*
Open Root Server Coalition (ORSC)*
Society for College and University Planning (SCUP)*
US Council for International Business (USCIB)


表2 AP-IFWP シンガポール会議の主催団体

アジア太平洋ネットワーキング・グループ(APNG)  http://www.apng.org
会長:タン・ティン・ウィー tinwee@irdu.nus.sg

アジア太平洋インターネット協会(APIA)  http://www.apia.org
会長:ジン・ホー・ハー jhhur@nuri.net

アジア太平洋ネットワークインフォメーションセンター(APNIC)  http://www.apnic.org
会長:高橋 徹 toru@tokyonet.ad.jp

アジア太平洋ポリシー及び法律フォーラム(APPLe)
代表:ライナ・グリーン laina@singnet.com.sg

アジア太平洋情報開発プログラム(APDIP)・UNDP  http://www.apdip.net
責任者:ガブリエル・アカシーナ gabriel@apdip.net

パンアジアネットワーキング(PAN)・IDRC  http://www.PanAsia.org.sg
代表:マリア・ウン・リー・フーン MariaNgLeeHoon@idrc.org.sg



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