拡大するネットの社会的影響力『日経マルチメディア』連載 アジアネットワーク便り(11月号) (アジアネットワーク研究所/クアラルンプール)
ほぼ同じ頃、マレーシアでは、マハティール首相がライバルのアンワル副首相を「不 倫・同性愛」の嫌疑を理由として解任する事件があった。背景には深刻化する経済不況の打開策についての政策の違いを含めた権力争いがあるのだが、ここでも両陣営によってインターネット上での「宣伝合戦」が続いた。 マハティール首相は、約一カ月前にアンワル系と見られる新聞社とテレビ局の幹部 3名を辞任に追い込み、マスメディアを押さえた上でアンワル解任に踏み切った。その直後には、政府系の新聞報道と並んで、アンワル側に打撃を与える内容の警察の捜査調書がインターネットで公開された。アンワル陣営も負けてはいない。すぐに自らの主張を掲載するホームページを開設した。ただし本物のサイトはアクセスが殺到し、まったく見ることができなかった。その後、たまたま新聞にミラーサイトのアドレスが掲載され、マスメディアからは伝わらない支持者の動きを直接知ることができるようになった。 ところで、マレーシアのインターネットの利用者は約30万人、人口比で2%にも満たない。5千万人を超え、人口の20%以上という米国とは比較にならない。それでもインターネットは今回の政変をめぐって多用されている。 実は、マレーシアでは7月に、首都クアラルンプールの繁華街で「インドネシア人が中国系市民を対象に暴動を起こす」とのデマがインターネットから流され、大騒ぎになる事件が起きたばかりだった。噂を信じた市民が商店に殺到して買占めに走り、スーパーの棚はあっという間に空っぽになった。インターネットの利用者はごく僅かなのに、なぜインターネットからの噂が市民を走らせたのかというと、最初にメールを受け取った市民が、普通の電話や携帯電話を経由して広めたというのが真相のようだ。現にその日の電話のトラフィックは明らかに急増したという。 プロバイダーが警察の捜査に協力し、噂の発信源と目された3名が後日逮捕された 。悪質な確信犯ではなく、単なる「愉快犯」だったようだ。しかし、この事件を通して、マレーシアのインターネットの利用者は、少なくとも「情報源」として、インターネットが社会的に大きな影響力をもつことを実証したといえる。 言いかえれば、政府系のマスメディアが一方的な情報しか流さないときに、少数の側 からの発信手段として、インターネットは強力な武器となるといえる。ある関係者は「表には出ないが、メールによる情報交換は非常に盛んになった。知らない相手からだと危険なので返事しないが、よく知っている人間同士なら、真相を伝える手段としてインターネットのメールが重用されいている」と語っている。すでにアンワルは逮捕され、獄中にいて動静は伝わてこない。しかし、インターネット経由での情報は、地下水のように絶えることなく流れている。
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