アジアの情報化研究と「象牙の塔」



『日経マルチメディア』連載 アジアネットワーク便り(12月号)



会津 泉

(アジアネットワーク研究所/クアラルンプール)





前回「マレーシアのインターネットの利用者は約30万人、人口比で2%にも 満たない」と書いたが、その後インターネットの関係者と話したら、マレーシ アでは一つのIDを2、3人で共有することが多く、「実数」では70万人位が妥 当ではと言われた。日本では一人で2、3個IDをもつのも珍しくないが、アジ アでは1つのIDを複数の人間でシェアすることがたしかによくある。経済的な 負担を減らすための「生活の知恵」だ。そういえば、私が幼い頃は、近所の 人に使ってもらう「呼び出し電話」が普通だったから、似たようなものだ。

さてマレーシアに住んで1年半ほどになるが、お客がよく来る。「アジアの経 済発展と情報化の動向に関心があり、一度調べに行くので話を聞きたい」と いうのが典型だ。気がついてみると、来られるのは圧倒的に学生・若手が多く、 「教授」はまだ一人もお見えになっていない。民間シンクタンクの研究者も多い。 学生の場合、紹介者もとくになくホームページを見ての飛び込みもある。

実は今年6月から(財)アジア経済研究所が「アジアの情報化構想と新経済 発展」という研究会を始め、私も加わっているのだが、ここにも大学教授はいな い。アジアを対象に研究する社会系の研究者は少なくないはずだが、伝統的 な経済学、農業、あるいは文化人類学などを専門とする教授はいても、「情報 化」は最近の現象なので専攻する人は皆無に近いのだろう。ある大学院生の 話では、博士論文のテーマを「アジアの情報化政策とインターネットの役割」 にしようとしたら、担当教官に「マスメディア」を対象にするようにと指導されたと いう。自分が教えられないからというのが理由なのだろう。こうして若い好奇心が 潰される。

マレーシアやシンガポールなどの政府指導者は、経済発展に情報化の推進 は不可欠だと認識し、本気で情報化プロジェクトを推進している。この動きは隣 国のフィリピンやインドネシア、ベトナムなどに強い影響を与えた。中国やインド も含めアジアのほとんどの国には、情報技術の発展で欧米先進国がますます栄 え、自分たちは取り残されるという危機感が強い。台湾や香港は、情報関連産 業が頑張って経済危機の打撃を和らげている。
こうしたアジア社会の現実の関心事を、日本の経済学者が積極的に取り上げ て研究しているという話は聞こえてこない。ホームページに論文も見ない。日本 に限らず、アジア各国の伝統的な学者でこうしたホットな話題をストレートに研究 テーマにする人は少ない。わずかにアメリカの若手に少しいる位だろう。「象牙の 塔」は健在のようだ(違っていたらお許しを)。

そこで、「アジアの情報社会」をテーマに「CyberAsia」というメーリングリストを開設し、アジア諸国のなかでも日本はとくに情報化投資に及び腰だ、といった議論 を始めたところだ。まだそう活発ではないが、40名ほどの人が加わった。若手研究 者は多いが大学教授はごく少数だ。きっかけは、クアラルンプールに訪ねて来られ た石井由香さんという、津田塾大学の若手研究者が始めた「Ethnic and Migration Studies in Japan (EMSJ)というEメールの「電子かわら版」だった。マレーシアの教 育政策について専攻する彼女と色々話しているうちにヒントが湧いたのだ。若手、 女性の研究者の方が元気が良い。これらのリストに参加したい方は、とりあえず私 宛(izumi@anr.org)にメールをいただければ幸いだ。





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